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耳なし芳一

小泉八雲
「怪談」より

今から数百年も昔のことの話で御座います。赤間関、今で言う下関の壇ノ浦ですな。ここの阿弥陀寺に、盲目ながらも琵琶が巧みな少年がおりました。「芳一」という名の彼の平家語りの妙技は「人をして感泣せしめ、鬼神をうごかす」と言われる程に優れたものであったようで御座います。・・・・実際私も聴き入りたいものですな。琵琶法師の語りは鎮魂供養の役割を担うともいいます。この私の哀愁と悲哀の感も涙で洗い流し・・・・あゝ、いけません。話が逸れました・・・・。
ある夜、寺に芳一がひとり残されていた時に、侍らしい者が現れ高貴な方々の前に連れていかれる。
『・・・・すると、さいぜんの老女の声が答えた。「壇ノ浦合戦の段をお語りなされい。あの段は、平家のうちにても、一段と哀れの深きくだりじやほどに。」やがて芳一は、やおら声を張り上げて、激しい船いくさのくだりを語り出した。・・・・。』
その日から真夜中になると迎えが来たのですな。寺男達が芳一の後をつけるとそこは・・・・、いえいえ、私は書物好きなただの物好き人。その場所を訪ねたわけでは御座いません。とてもとても恐ろしゅうて。若い皆さんでこそ、真夜中にその場所へ、訪ねられてみては如何ですかな。

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