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ツインギャラリー蔵「脈打つ指先」    オノマトペアート鑑賞会〈夏目とも子 作品群 〉



ステートメント

この蔵の壁は土、木板、トタン、壁紙、塗料と時代によって様々な材料でできていました。変化し続ける建物の表層と、そこで生活を刻む人の時間を想像して色を形にしてゆきました。
私の母は絵描きで、油絵の具の匂いと絵の具で汚れた壁を見て育ちました。
蔵の中にいる四代の女性たちに接するうち、母の作品に登場してもらおうと初めて思いました。今回使用した色材は三つ、クレヨンは動く色、羊毛は包む色、ペンキは固定する色でした。


1階展示(左壁 作品2、3・上 作品4・床 作品5・右壁左下 作品6・上作品7・右壁右下 作品8)
1階サンルーム(作品1)
1階展示(正面壁 作品13)
1階展示(階段下壁 作品15)
1階展示(階段下壁 作品16)
1〜2階展示(階段横壁 作品18)
2階展示(階段上窓 作品19)
2階展示(右側壁床 作品20)


蔵が刻んだ時間から放たれる色の世界

ギャラリーの空間を縫うように展示された夏目さんの作品は全部で15点。
足掛け2年、この蔵が見つめてきた時間、そしてそこに暮らした人々を見つめ続け、丁寧に丁寧に展示されていました。
表現されたものはいたってシンプルで美しく、柔らかいようでいてどこかとんがっていて、それぞれに違う物語があるようで、繋がった何かもありそう、、、
だけど、作品からそれを突き止めるのは、なかなかにむづかしい、、、
表現に至るまでの作家自身の想いは、とても細やかで丁寧で温かさに満ちているのだけど、鑑賞者として作品の前に立つとその声はいつの間にか遠くに消えて、物質と行為がもたらす現象だけが立ち上がり、「なんだろう、これは?」の沼に落ちていく、、
掴めそうで掴ませてくれない、触れそうで触れない、そんなもどかしさがつきまとうのだけど、作品は確固としてそこにあって、纏うものには、色々な感触を感じました。


みんなのオノマトペ

作品1/探す、刻む、包み込む ギャラリーの壁をつくろう 
2024 ペンキ・パテ

作品1/探す、刻む、包み込む ギャラリーの壁をつくろう 2024 ペンキ・パテ
●4/27(土)昼の回 つるる すー つつつるる  じじじじじー 
カリガリ カリカリ ギゴギゴ
●5/4(土)夜の回 ぎゅう じゃー ざー しゅー ぐいぐい コツコツ 
ぐにゅぐにゅ びよ〜ん さ〜〜〜 カク ざわ しゃ〜 サッ バサー バー ドォー 
ツッツッツッツッ ガチガチ ガコガコ グルングルン ゴリゴリ

作品2/ギャラリー蔵 サンルームの光 2024 ペンキ・パテ

作品2/ギャラリー蔵 サンルームの光 2024 ペンキ・パテ
●4/27(土)昼の回 スッスッスッ スッ サラサラサラ スッハラハラハラ つんつん にょきにょき ギュギュギュギューン ジュワン ツンツン キンキン シュワー
●5/4(土)夜の回こつこつこつこつ てんてんてんてん ずーーーっ! しゃき〜ん さく シャワシャワシャー ピーンピーンピーン

作品3/壁のシミ 2024 ペンキ・パテ

作品3/壁のシミ 2024 ペンキ・パテ
●4/27(土)昼の回つっ ぼや〜 ホーイ ポチン ピシッ ニュワニュワ 
●5/4(土)夜の回 きしきしぶも〜 ぴよ〜ん ふっ ふわ ぶーん ガリッ チュン パシッ

作品4/鴨江の壁 204号室(残存一部) 2016 ペンキ・パテ

作品4/鴨江の壁 204号室(残存一部) 2016 ペンキ・パテ
●4/27(土)昼の回 スパッ キラキラ ピシッ ジュワ
●5/4(土)夜の回 ずーん スパッ ジャリジャリジャリ

作品5/流されてゆこう 2024 トレーシングペーパー・クレヨン・パラフィン・チラシ・ペンキ・パテ

作品5/流されてゆこう 
2024 トレーシングペーパー・クレヨン・パラフィン・チラシ・ペンキ・パテ
●4/27(土)昼の回つー すうー つー すいすい すーすー スイスイスイッ 
ユラユラ ポポポ
●5/4(土)夜の回 カラリ ぱらり すー スイスイスー

作品6/黄色あるいは青の  2024 羊毛・亀甲金網 

作品6/黄色あるいは青の  2024 羊毛・亀甲金網
●4/27(土)昼の回パァー ホワホワ
●5/4(土)夜の回 ふわぐぅ〜 ふわふわ ポヨン ホワホワ フカフカ

作品7/彫刻と絵 色の行方 
2024 クレヨン・パラフィン・紙やすり・画用紙

作品7/彫刻と絵 色の行方 2024 クレヨン・パラフィン・紙やすり・画用紙
●4/27(土)昼の回てーとん てーとん とんとんとんとん ささささ ヌル〜 
ピンピンピン ザザザザ モワモワ
●5/4(土)夜の回 シャリシャリ グリグリグリ ガサガサ ファーファーファ〜 ムニムニ

作品8/石を包む 2024 羊毛・ギャラリー蔵の石

作品8/石を包む 2024 羊毛・ギャラリー蔵の石
●4/27(土)昼の回ほむほむほむ ちらっ ぬくぬく コンコンコン 
フワフワ ズシリ ムヤムヤ
●5/4(土)夜の回 むふ〜 こん! ふわっ ずーん ゴロンコロン ホワカチ ズシリ


作品13/ギャラリー蔵 2024 サンルームの記憶 2024 ペンキ・パテ

作品13/ギャラリー蔵 2024 サンルームの記憶 2024 ペンキ・パテ
●4/27(土)昼の回ペーーー スー 
●5/4(土)夜の回 ずーん さ〜〜 スーン

作品15/流れ出す色と未来へ 2024 金属板・クレヨン・パラフィン

作品15/流れ出す色と未来へ 2024 金属板・クレヨン・パラフィン
●4/27(土)昼の回ぺとっ ぺちゃ とろっ たら〜り どろっ ぽたん トントントン 
プヒャー ニュルン ピカピカ ズワワ ピチョン ザラザラ
●5/4(土)夜の回 カツン ドロン ピシャ にょっきり ふん ふんふんふん
とろっ さらっ ニュワーン ポヨン ヒョローン ピチョンポチョン

作品16/継ぐ、しがみつく色 2024 母陽子作 トタン板・腐食剤・油絵具/娘とも子作 塩化ビニールシート・クレヨン・パラフィン・アルミ針金

作品16/継ぐ、しがみつく色 2024 母陽子作 トタン板・腐食剤・油絵具/娘とも子作 塩化ビニールシート・クレヨン・パラフィン・アルミ針金
●4/27(土)昼の回じわじわ ツンツン ズビーン ザビザビ
●5/4(土)夜の回 ぺった〜〜〜 ざらざら ぱりっ モヤモヤ ピカピカ

作品17/傷と風 2024 ペンキ・パテ

作品17/傷と風 2024 ペンキ・パテ
●5/4(土)夜の回 ちゅん ちゅっ さっ かりっ ぽり ピッピッピピ

作品18/ピリリと破ればいい 
2024 ペンキ・パテ・ギャラリー蔵の壁紙・クレヨン・パラフィン

作品18/ピリリと破ればいい 2024 ペンキ・パテ・ギャラリー蔵の壁紙・クレヨン・パラフィン●4/27(土)昼の回 ぷゆゆ じわじわ ムキュムキュ ガリガリ 
●5/4(土)夜の回ほろほろ すべすべ ぱりっ しっとり トロリ ガシガシ

作品19/小さき黄色をどうぞ 2024 クレヨン・パラフィン・テグス

作品19/小さき黄色をどうぞ 2024 クレヨン・パラフィン・テグス
●4/27(土)昼の回ピンピンピンピン ポトン さらさら キラキラ さささささ モシャモシャ●5/4(土)夜の回 しゃらしゃらしゃら〜 しゅわっ… ほろっ… 
シャクシャク ポトリ チョコンチョコン

作品20/遊ぼうよ 2024 クレヨン・パラフィン・テグス・アクリル板・羊毛・金網・塩化ビニルシート・ギャラリーの石

作品20/遊ぼうよ 2024 クレヨン・パラフィン・テグス・アクリル板・羊毛・金網・塩化ビニルシート・ギャラリーの石
●4/27(土)昼の回つーぽてつーぽて ぽたぽた ぴちょん とろん たらん ふかふか 
ポチョン ユラユラ
●5/4(土)夜の回 コトンコトン ポツンポツンポツンポツン はぁーーー ぽとぽと にょき ポツポツ トロリ シュルンシュルン


ダイアローグ @4/27

・伸びやかな線が気持ちよさそう(作品1)
・左右に揺れる線の様子。一本の線の中にいろいろあって面白い(作品1)
・線という概念からはみ出しているのもあって面白い(作品1)
・「すっ」と「サラサラ ハラハラ」と二つの方向がある(作品2)
・「ぼや~」と「ホーイ」と「ポチン」は同じ場所から(作品3)
・「つー すうー つー」「すいすい すーすー」「スイスイスイッ」みんな「スー」を感じている(作品5)
・パァーと黄色とホワホワ質感で暖かそう(作品6)
・全体の雰囲気がこんな感じ「てーとんてーとんとんとんとん」軽やか
(作品7)
・白いキャンバスは何もないのを表現したくて「ペーーー」(作品13)
・「通り過ぎたからスー」(作品13)
・難しかったけどたくさん感じるものがあった(作品15)
・盛り上がった部分が柔らかそう ガリガリと擦って欠けているのはなぜ?(作品18)
・ピンピンピンピン→ポトンと黄色いものが落ちてきたよう(作品19)
・上からツーと何かが落ちてきて、ぽてっと落ちてる感じ(作品20)
・柔らかいものが上から落ちて、広がったぴちょん とろん たらん(作品20)
・いろんな材質の質感があって面白い 
・彫り跡に込められた思い(思惑?)を想像するのが面白い
・作品が発している思いを言葉で表現することはあまりしていなかったので、楽しかった
・感覚を感覚のまま言葉にするのは楽しかったです。
・細やかで優しい作品でした。

ダイアローグ @5/4

・ぎゅう じゃー ざー しゅー ぐいぐい コツコツ 線を辿っていくと、彫り跡が色々で面白い(作品1)
・ぐにゅぐにゅ びよ~ん あの深く掘ってあるところ あそこは白いから白鳥の頭に見えた(作品1)
・一本の線の中にいろんな人の思考が入っている(作品1)
・こつこつこつこつ てんてんてんてん ずーーーっ! 作っている時の音を想像してしまう(作品2)
・しゃき~ん さく とんがっている部分(作品2)
・ピーンピーンピーンと光が入ってきて、シャワシャワシャーと溶けて見えなくなる感じ(作品2)
・きしきしぶも~ ぴよ~ん ふっ ふわ ぶーん よくわからない形がふたつくらいある(作品3)
・ずーん 右側の感じ(作品4)
・斜めにスパッと区切れていて、右側だけジャリジャリジャリと何かが色々ある (作品4)
・カラリ ぱらり 素材の感じと所々にある感じ(作品5)
・すー スイスイスー 流れに乗って進んでいるように見えた(作品5)
・ふわぐぅ~ 柔らかいものをぐぅーっと抑えている感じ(作品6)
・黄色が光っているようにも見えた(作品6)
・クレヨンで描いた跡が シャリシャリ(作品7)
・左からグリグリグリ→ガサガサ→ファーファーファ~ クレヨンの先っちょみたいな物がムニムニ(作品7)
・質感が違う3つの画面が並んで、混じりあったり混じり合わなかったり、、(作品7)
・むふ~ こん! ふわっ ずーん 見た目の柔らかさと中にある石の重みがギャップがあって印象的(作品8)
・中の石が蔵のリニューアル工事の時に出た石だと聞いて、その石をふわふわした柔らかいもので包んで大切にしたいという気持ちなんでしょうか?
あの黄色や赤の色を付けているのはどんな意味があるんだろう、、
・それは、物質としての存在を示しているだけではないか。でも、作家の確固たる思いというのはあるんだと思う。(作品8)
・作品を鑑賞していると、なぜクレヨン?なぜ羊毛?なぜアクリル版?と様々な素材を使って表現されているものをどう受け止めていいかわからなってしまう。でも、作家さんの話を聞くと、ギャラリーで起きた様々な事に寄り添って、ひとつひとつ丁寧に汲み上げていることがひしひしと伝わる
・ずーん さ~~ スーン 何もない音(作品13)
・カツン ドロン ピシャ 色を乗せたときの音や広がる感じ
・とろっ さらっ 色の感じ(作品15)
・ニュワーン ポヨン ヒョローン ピチョンポチョン 金属の上に乗った色が広がっていく様子(作品15)
・にょっきり ふん ふんふんふん ぺった~~~ ざらざら ぱりっ モヤモヤ ピカピカ銅板の雰囲気(作品16)
・ちゅん ちゅっ さっ かりっ ぽり ピッピッピピ 壁にちょこっとある感じ(作品17)
・ほろほろ すべすべ・ぱりっ しっとり・トロリ ガシガシ 浮き出ているところが濡れているような感じ(作品18)
・しゃらしゃらしゃら~ 上から吊るしてある黄色いビニールのもの(作品19)
・しゅわっ… ほろっ…・シャクシャク ポトリ チョコンチョコン 上から流れ落ちて下へ落ちるイメージ(作品19)
・コトンコトン 規則正しく並べられていて、遊んでいる感じではない気がした むしろ遊ぶ前?だから、「遊ぼうよ」と誘っているのかな?(作品20)
・ポツンポツンポツンポツン はぁーーー 少し、寂しいイメージがした 暗さがそう感じたのかも(作品20)
・ぽとぽと にょき 色の塊が上から落ちてきた感じ(作品20)
・立体と平面の違いと難しさを感じた


まとめ

平面や立体の作品を織り混ぜた夏目さんの作品からは、様々な表現が現れました。
カタカナとひらがなを使い分けている方もいて、その辺りの感覚についても、話が広がりました。人の動きを表したいとき、柔らかいものを表現したいときは、ひらがなを使うことが多いのではと思います。

オノマトペの傾向として特徴的だったのは、以下の2点でした。
ひとつ目は、一見したところひとつの方向性に括れるものがなく、非常に多様な質感が現れたこと。
とんがったり、丸かったり、温かかったり、冷たかったり、動きの速いもの、そこに留まっているものなど多様な感覚にあふれています。
それは、蔵が見てきた長い時間の中で、様々に変化するものや人、出来事に重なるようです。

ふたつ目は、ものの質感や動作の強弱など作品から醸し出される雰囲気を表す言葉がほとんどだったこと。
作品点数も多く、様々な素材を使った表現があり、ひとつひとつから受け取る情報が豊かだったことは確かです。
しかし、鑑賞者の心情を表現する言葉がほとんど出てこなかったのはなぜなのか。鑑賞会後のアンケートには「細やかで優しい作品でした」とコメントがあるにも関わらず、オノマトペにはそれが現れないのが不思議です。

作品の中心となっている蔵の壁は、長い年月を経て先祖から受け継がれ大切にされてきたものです。そこには、様々な出来事や時間の経過による変化が刻まれて、それが作品に投影されています。
しかし、作品には歴史の中にあるストーリーや思いが具体的に示されず、壁の一部、シミの形、蔵から出てきた石など、蔵という全体のほんの一部分を切り取って提示され、全体からしたら大きな大きな余白が残されています。
もしかすると、この情報の余白が今回のオノマトペと関係しているのかもしれません。  

鑑賞会の中で「それは、物質としての存在を示しているだけではないか」という意見があり、ハッとしました。
そこに、作品の真髄が隠されているのかもしれません。

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