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車いすママの日常 10(息子はちびドラマー)

息子が初めてドラムをやりたいと言ったのは、3歳の時でした。

息子は私と同じ骨形成不全症を持って生まれてきました。この病気のせいで走ることが苦手な息子は保育園でお友だちから「◯◯くんがいるとリレーで勝てないから、運動会には来ないで」と言われて落ち込んだことがありました。

当時の主治医から「本人がやりたいと思うことをやらせてあげて、自信を持たせてあげてください」とアドバイスいただき、その場で先生が息子に

「◯◯くんは今、何が一番やりたいの?」

と聞いた時即答したのが、

「ドラム!!」

でした。

ドラム?
ああ、太鼓ね。そうか、太鼓か、これかな?と先生が太鼓を見せると、息子は

「違う!ドラム!」

と全否定。
こんなに小さい子がドラムを知っているのか??と先生は頭を捻っておられました。

前回の内容に熱く記した通り私には大っっっ好きなミュージシャンがいて、息子が小さい頃から一緒によくライブDVDを観ていました。1歳の頃からライブにも連れ回していて、偏りは認めるもののとにかく音楽とはしょっちゅう触れていました。

私はおぼろげに、いつかこの子にピアノを習わせたいなぁと考えていました。自分がやりたくて、でも車いすで通える教室が見つからず諦めたピアノ。もし息子が興味を持つようだったらぜひ、やらせたいなぁと思っていました。

しかしまさかドラムに興味を持つとは。驚きました。ライブDVDを観ているうちに息子はあちこちを長い棒で叩いたり(ライブDVDの中でドラマーの方が外で色々なものを叩いてリズムを取っている映像があってそれを真似していた)、なべを叩いたり、とにかくドラマーの方の真似ばかりしていました。「あの人カッコいい、あの人みたいにやりたい」といつも言っていました。だけどまさか、本当に本気でやりたいとは思っていませんでした。

それからはドラムを習える場所があるのか、と必死に探し、近くのショッピングセンターに入っていた某音楽教室のドラムレッスンの体験に行ったことがありました。

まずはこの子には骨の病気があることを伝えました。もしレッスン中にどこかが痛いと言い出したら無理させずにそこまでで終わりにしてほしいこと、万が一痛みが出ても教室側の責任を問うつもりは全くないことをお伝えしたものの、やはり病気があることは大変な壁になり、体験はいいけど実際に通うのはちょっと…と渋られました。

とにかく体験を、と教室に入ったものの、そこはグループレッスンの形で行われており、一人一人に配られたのは紙の、まさに「太鼓」。それを棒で叩くことでリズムを鍛えるという内容でした。生ドラムを叩けるのは先生のみ。ドラムを叩きたかった息子は体験レッスンが終わって開口一番、「ぼくが叩きたいのはドラムなの。紙の太鼓じゃない」と。

そもそも「病気があるのにドラムを叩きたいなんてこちらでは責任は持てないので、遠慮してほしい」と言われていたため、そこに通うのは無理だったのだけど、息子自身も「あの教室には行きたくない」と言ったので、ここに通う選択肢は無くなりました。

そのあと出会ったのが今通っているスクールでした。ここの先生は息子の病気のことを伝えても「うんいいよ、本人がやりたいんならやればいいんじゃない。痛かったら休めばいいよ別に」と軽く明るく言ってくださいました。びっくりした。まさかこんなに簡単に息子の病気を受け止めてくれるなんて。そんなわけで、3歳の終わり、まさに4歳になるぞというその月から息子はドラムに通い始めました。

ここはマンツーマンレッスンで、息子が叩けるキッズサイズの生ドラムが用意されていたため息子は大喜びでした。

最初はもちろん楽譜なんて読めないわけで、先生は絵にした楽譜を書いてくださいました。手と足の絵で、ここでドン、ここでタン、という具合に。4歳の子に8ビートを教えるって、大変なんだろうな。息子は自分がやりたいと言っただけあって、家でも毎日毎日スティックを握って練習台代わりに作った雑誌にタオルを巻いたものをバンバン叩いていました。5歳の頃はバンドの一員としてドラムを叩く形の発表会にも出させてもらいました。

しかし保育園のお遊戯会で腕を骨折してしまい、しばらくドラムをお休みしたことがありました。

もしかするともう、
こんなに簡単に折れるんじゃドラムは無理だね、
とか、
危険だから責任持てない、
と言われるかもしれない。
そんな不安が付き纏っていた中ドラムの先生に状況をお知らせすると、「うんわかった、じゃあ治ったらまたねー」と明るく応えてくださったのです。

拍子抜けしました。
ああ、まだ、この子はドラムを続けられるんだ。
そう思ったら一気に力が抜けました。

息子はこの骨折中も三角巾で吊った腕にドラムスティックを持って、一生懸命に練習をしようとしていました。痛いんだからやめなよと言っても、でもやりたいんだと言ってスティックを離さないのです。

なんだか涙が出てきました。
こんなに好きだと思えるなら、続けさせてやりたい。どうかどうか、また通えるようになりますように。祈る思いだったのです。

それからは時々腕や足を痛めながら、その都度お休み期間を交えながらも、もう今年でドラムを習い始めて10年になります。

ドラムを習い始めてから、例えば保育園で、小学校で、運動面でお友だちからバカにされても文句を言われても、「でもぼくはドラムができるから。みんなにはできない、ドラムがあるから」と自分に自信を持てるようになりました。ドラムが息子の支えになってきたことは、間違いありません。

ドラムを叩いている時が一番楽しいんだと、セッション(ライブハウスにその時に集まった知らない人たちと一緒に演奏する場)に行った帰りによく息子が車の中で話してくれます。「ドラムを叩いている時が一番気持ちいいんだ」そうです。レッスンに行く前は「あーどうしよう、宿題できなかった」とドキドキしながら憂鬱な思いでいても、帰りには「あー楽しかった!」と晴れ晴れした顔になっているので本当に好きなんだろうな、と感じています。

今息子はジャズが好きらしく、ジャズドラマーになりたいと言っています。私たち夫婦は、息子がやりたいことは全力で応援する、と決めているので、諦めないで頑張れ、と伝えています。ドラムに出会えたことは間違いなく、息子の人生に大きな影響を与えています。これから先息子が何を目指そうと、もしドラマーではない道を選んだとしても、あの3歳の時、ドラムをやりたい!と言ったことをきちんと受け止めてやれてよかったなと今心底思っています。

続く。

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