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部屋が汚くてまだ死ねない


今日も死ななかった。

飲みかけのペットボトルを、明日の朝飲むために放って置いてベッドにどさりと倒れ込む。暗闇の中しばらくスマホをいじってから眠りにつく。
また今日も死ななかった。

別の日、作りすぎたサラダを冷蔵庫に置いて保存しておく。書きかけの宿題、まだ返していないショートメッセージ、全てを明日の自分に託してベッドに横になる。月の光も差し込まない夜、暗い部屋で見えない天井を見上げながら思う。
また今日も死ななかった。

朝、多めにセットしておいたスマホの目覚ましで目を覚ます。頭の中で、今日の予定を思い出しつつあと何分寝られるかを逆算する。朝食は取らず、適当に身支度を整えて家を出る。最近の朝はそれなりに天気が良い。少ししっとりとした空気の中、駐輪場まで歩きながら思う。
あ、私今日死ぬかも。


いなくなるなら何もかも全部片付けておかないと。


年が明けたら、卒業したら、30歳になったらー
節目のたびに思っては見るものの、どれほど経っても部屋は汚いままだし、来週、再来週の予定があれよあれよと決まっていく。

友達がいた。誰からも一目置かれ、尊敬され好かれていた。あの子はあの日、部屋は綺麗に片付けて行ったのだろうか。恋人がいたはず、家族、友人、そう簡単に片付けられはしない存在に、どうやって別れを告げたのか。

明日会う予定の友人、食べきれなかったご飯、来るかもわからないショートメッセージ、片付いていない部屋、明日の自分への淡い期待が今日の私を今世に留まらせてもどかしい。
そうやって今日まで積み上げたものに私は生かされている。

深夜、酔って帰宅。勢いでコンビニで買った弁当はそのまま、雑に乾かした髪、しっかり落ちたかわからないクレンジングをどうにか済ませてベッドに飛び込む。脱ぎ捨てた服、出しっ放しの弁当、充電済みのスマホ、薄れゆく意識の中で今日も思う。
今はまだ死ねない。



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