リトルカブに乗る前と乗ってからの話
ホンダのリトルカブに乗り始めて、1年3ヵ月経つ。
19歳で普通自動車免許を取ってから今の今まで、二輪車には全くと言っていいほど興味がなかったのに、今では「うちの子」と呼ぶくらいべったりである。
そもそも、カブに乗るキッカケは移動の足が欲しかったから。フリーで仕事をしていると交通費は支給されないのでかなりかさむ。
そこで少しでも交通費を抑えるために原付に乗ろうと考えた。私が何かを買うときは、かなりネットで下調べをする。下調べをするうちに出会ったのがカブなのである。
カブに乗る人たちはみんなとても楽しそうにカブのことをブログに書いている。ツーリングのこと、整備のこと、キャンプツーリングのこと。カブに乗ると、こんなに世界が広がるんだ。そう思った私はカブに乗ろうと心に決める。
カブについて調べる
調べていくうちに、カブにはスーパーカブ、スーパーカブプロ、クロスカブ、リトルカブと種類があることを知った。
リトルカブはすでに生産中止だったのだけど、スーパーカブよりタイヤの径が小さいのでかわいらしさがある。身長の低い私でも足付きの心配もなさそうなので、リトルカブにすることにした。
それとバイクのエンジンには、キャブレター式とコンピュータ制御のインジェクション式(FI)の2つの燃料供給方式がある。簡単に言うと、キャブレターはアナログでインジェクションはデジタル。作りの簡単なキャブレター方式のほうが価格は安いのだけど、気候の影響を受けやすく不調になりやすいというデメリットがある。
一方でインジェクション方式はコンピューター制御なので構造は複雑になる。その分、車体価格は高くなるし故障したらインジェクションユニットそのものの交換になる。
ただ、仕事バイクであるカブならそうそう壊れることもない。なので、手のかからないインジェクション方式にした。
それと、カブには3速キック式とセル付き4速の2種類がある。これは迷うことなくセル付き4速に決めた。
予算は15万円以内。乗って帰りたいのでできれば自宅から1時間以内で帰ってこれるところがいい。
初めての試乗
そう決めて、gooバイクでカブ探しが始まった。2017年夏頃のことである。
あるとき、近くの中古バイク販売店で状態のいいスーパーカブ50を見つけた。リトルカブを探しながら、スーパーカブでもいいかなという気持ちが芽生え始めていた。
さっそく試乗の予約をして、販売店に向かう。かなり状態のいいスーパーカブを見て、敷地内で実際に試乗させてもらうことに。
ところが。
ここでとんでもないことが判明した。エンジンを掛けてシートに跨がり、スロットルを回そうとしたときのこと。
え?スロットルは手前に回すの?
そう、私は今までずっとスロットルは向こう側に回すものだと思い込んでいたのだ。
私の頭はパニックになった。近くには売り物の高いバイクもいるため、すぐに止まるつもりだったのに緩めるどころかスロットルを思い切り回してしまった。
あ、ぶつかる!!
その瞬間、私の身体とスーパーカブは売り物のバイクに突っ込んだ。試乗をさせてくれた店員さんが慌てて起こしてくれたものの気がすっかり動転してしまった。
私が突っ込んだバイクはマフラーに思い切り凹み傷が付いている。私はただ「売り物が・・・バイクが・・・」とうわ言を言いながら店内に運ばれていくバイクを見つめていた。
しばらくして我に返り、試乗をさせてくれた店員さんに平謝りしたのだけど、「こちらもお客様に試乗を勧めた以上責任があります。傷の付いたバイクは保険で何とかします」と言われ、何もせずに帰らせてもらうことになった。
翌日。カブで転んで打ち付けた左の脇腹がなんだか痛む。しばらく様子を見たものの寝返りを打つと息もできないくらい傷んだ。さすがにこれはおかしいと感じて整形外科を受診すると、肋骨の一番下が折れていた。治療方法はただ固定して治す以外にないので、コルセットで固定して完治するのを待った。
原付ペーパー講習
完治したあと、ネットで原付きペーパー講習を受けられる教習所を探した。さすがにこのまま何もしないでバイクに乗るのは非常に危険だと感じたからだ。
横浜の二俣川教習所で原付ペーパー教習をやっているのを見つけてさっそく申し込んだ。
教習にはヘルメットとグローブ持参で長袖長ズボン着用が必須である。ヘルメットとグローブは貸与されたけど、グローブは軍手、ヘルメットは大きくてブカブカだった。
私が行ったときは原付き教習に参加したのは二人だった。ほぼマンツーマン状態。普通二輪教習をやっている傍らで、スクーターを使って教習を受けた。センタースタンドの掛け方からエンジンの掛け方、走り出しまで細かく丁寧に教わった。おそらく普通自動車免許を取得するときに教わっているはずだけど、20年近く前なので全く記憶になかった。
60分教習を受けて、何とか走れるようになることができた。
物件探し
実はもう一つ問題があった。自宅には二輪車を停めるところがないのだ。不動産屋にも聞いてみたが、付近には駐車場しかないとの答えだった。今のところにはだいぶ長いこと住んでいる。せっかくなのでこれを機に引っ越しを決めた。
住む駅を決めて、物件探しを始める。ネットで探すと物件がたくさん出てくるので候補を絞っていく。そして住みたい駅の不動産屋へ向かったのだが、バイクを置ける駐輪場という条件を追加すると、10件以上あった候補物件数はわずか数件に激減した。
そのわずか数件の物件を下見に行く。そして、一番最初に見た物件に決めた。忙しい年末に新しい物件に引っ越しをして、カブを停められる家を確保した。
再びカブ探し
さてまたカブ探しである。年が明けて、2018年。今度はリトルカブ55周年記念モデルを見つけた。このリトルカブはスーパーカブが発売されて55周年になるのを記念して作られた限定モデルで、黒い車体と赤い車体がある。セル式4速のFI式。タイヤのリムに赤いペイントが施されている。今までのカブシリーズと比べてクールでかっこいい印象。
さっそく数日後の試乗を申し込んだ。しかし、試乗する一日前に何と実店舗でリトルカブが売れてしまったのだ。
無念の思いを抱えながらさらにリトルカブを探す。すると今度は足立の店舗で50周年記念モデルを発見。このモデルは初代モデル「スーパーカブC100」のカラーをモチーフに鮮やかなパールコーラルリーフブルー、シートは落ち着いたイメージのリードレッドが使われている。色のかわいさに一目惚れ。家から店舗が遠いこと、3速キック式であることが懸念事項だったのだけど、まずは実車を見てみて考えることにした。
ついにリトルカブを買う
西新井にある店舗で実車を見たとき、遠いとか3速キック式とかどうでもよくなった。何だこのかわいいカブは。
もう買うしかないと思った。価格は本体価格が7万円台。乗り出し価格は12万円台。予算はクリアしている。
「これ買います!」
購入手続きをして、ナンバープレートを取得。納車日にナンバープレートを持って訪れた。ちょっと汚かったハンドルはきれいなものに交換されていた。持ってきたナンバープレートを取り付けてもらう。これでもうこのリトルカブは乗って走ることができる。
ただ一つ問題がある。カブはスクーターと違ってギアチェンジが必要になる。運転操作をマスターしないと、はるばる足立区から神奈川まで乗って帰ることができないのだ。恐る恐るお店の整備士の方に相談してみる。すると、整備士の方は快く運転の指導を引き受けてくれた。
リトルカブ教習
まずは店舗の駐車場内でエンジンの掛け方から教わる。そして、1速から2速、2速から3速へのギアチェンジ。すいすいと駐車場内を乗り回す整備士さん。心なしかリトルカブが小さく感じる。
そして、おそるおそる乗ってみる。エンジンを掛けてニュートラルから1速へ。ガチャコンとシフトペダルを前へ踏み込む。ゆっくりと走り出す。2速へギアチェンジ。何度か試しているうちに何度か走り出すことができた。
続いて、裏の車通りが少ない公道を使った路上教習。走る距離も伸びた。2速から3速へギアチェンジして加速する。そして減速してギアをシフトダウン。停止してまた加速するという繰り返し。これを何度も繰り返した。
整備士さんは一旦離れて職場に戻っていったのだけど、すぐに帰ってきた。店長に確認したら快く指導を許可してくれたらしい。店舗上げての教習である。
1時間くらい練習して、ようやく何とか乗りこなせるようになった。あとは自分ひとりで何とかするしかない。整備士さんにお礼を言って店舗をあとにした。
恐怖の帰り道
さて。ここ足立区から神奈川方面へ帰るにはまず荒川を越えないといけない。ひとまず西に向かってみる。しかし、グーグルマップで調べてみても最短で渡れるのは環状七号線、環七しかない。原付初心者が車がビュンビュン走っている環七に入るにはかなりの勇気がいる。しばらくあたりをぐるぐる回って心を落ち着かせる。
よし、環七に突入するぞ!
無事に荒川を乗り越えることができた。あとはこのまま世田谷まで向かう。立体交差とアンダーパスは怖いので一度脇道に入って再び合流した。ようやく世田谷通りが見えてきた。ここで環七を離脱する。世田谷通りを経て、自宅へ到着することができた。
最後の難関
しかし、ここにも難関は待ち受けていた。実は自宅は道路から少し高いところにあり、5段くらいの階段になっている。駐輪場はその階段を登ったところにあり、階段の脇には自転車とバイクが登れるようにスロープが付いている。ただ、このスロープが超急斜面になっていて狭いのだ。このスロープを登らないことには停めることさえできない。
ギアを2速に入れる。スロットルを思い切り回し、一気に登ろうとした。
しかし、無情にもスロープの途中でカブが停止。そして初めての立ちゴケを経験する。レッグシールドは凹み、前輪カバーは剥げてしまった。購入したときはどこにも傷が付いていなかったのに、納車日にさっそく傷を付けてしまったのだった。
それでも登らないことにはどうしようもないので、再び挑戦してみるが、またしても失敗。立ちゴケこそしなかったがそのまま下まで下がっていってしまった。そしてようやく気付いた。1速で登ればいいんだと。
1速にして、再びスロットル前回でスロープを登る。リトルカブは難なくスロープを登りきった。
(実はこのあとも何度かここで立ちごけしている。)
カブ主になれた
駐車スペースにリトルカブを停めて、苦戦しながらセンタースタンドを掛けて、ようやく心が落ち着いた。
ああ、やっと私はカブ主になることができたのだ。
カブ主になってからは、さっそくあちこちに出かけた。リトルカブに乗ってから、すっかり世界観は変わった。車でも電車でも味わえない醍醐味を存分に感じている。今のところの最長記録は諏訪湖である。これからも、リトルカブとは色んなところに出かけるつもりでいる。
リトルカブに出会えてよかった。と、心の底から実感している。
いずれは普通二輪免許を取るので、取れたら88ccにボアアップして原付二種登録をするつもりである。そしたらもっと世界は広がっていくと思っている。
くまモンクロスカブ110に心を惹かれているのは、内緒である。
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