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ペアノの公理から足し算をしっかり作る 【1ページ数学帳】


ペアノの公理から足し算を作るときのもやもや感

ペアノの公理から私たちが普段「自然数」と呼んでいるものを構成できるのは有名な話。1 + 1 = 2 を証明したりね。

でも、この手の話題で出てくる足し算の定義

自然数上の加法 + を次で定める:
n + 0 = n
n + s(m) = s(n + m)

を見ると、なんかもやっとするなー、と感じたりしませんか? だって……

これ、本当に well-defined なんでしょうか?

「いやいや、まず各自然数 n ごとに自然数列 {a_m}_m を、漸化式

a_0 = n
a_{s(m)} = s(a_m)

で定義するだろ? n + m っていうのは、n に対する自然数列 {a_m}_m における m 番目の値 a_m のことなんだよ」

ほう……なるほど……

……? いやいやまてまて、やっぱりもやっとするぞ。

【もやもや1】そもそも漸化式を満たす自然数列って、存在するの? 

いやそりゃ存在するんだろうけど。それ、証明しなくていいの?

自然数列とは、自然数全体の集合 N から N への写像のこと。つまり写像の定義に戻ると、a が N から N への写像であるとは、

a は N × N の部分集合であって、
各 m ∈ N に対し (m,k) ∈ a となる k ∈ N がただ一つ存在する

ということ。果たして、各 n ∈ N に対して、3条件

・各 m ∈ N に対し (m,k) ∈ a となる k ∈ N がただ一つ存在する
・(0, n) ∈ a
・(s(m), k) ∈ a ならば (m, s(k)) ∈ a

を満たすような N × N の部分集合 a は存在するのか。ああ、もやもやする。

【もやもや2】選択公理使っちゃうの?

まあ百歩譲って、各自然数 n に対してそのような写像 a が存在することを認めるとしよう。でも……

n + m =(n に対する写像 a によって m を写した値)

と定義するっていうのは大丈夫なの? 自然数は無限個あって、自然数 n ごとに上記の写像の存在だけがわかってて、それを使って + を定義する……? え、選択公理使うの

いやまあ「選択公理を仮定してるんだ!」と言われればそれまでだけど、こんな基本的なところで選択公理使うだなんて。ああ、もやもやする。


ペアノの公理から加法の存在を証明

……というように、ペアノの公理を使って足し算を構成するのは直感的には簡単に見えても、ちゃんと示そうとすると意外と厄介なのです。

ということで、証明を書きました。加法の一意性もついでに示しておりますよっと。

【もやもや1】は補題2の存在性証明で解消。
【もやもや2】は補題2の一意性証明で解消。 

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個人ブログの方ではもう少し詳しく解説してますので、よろしければどうぞ ↓

ちなみに今回の証明では「漸化式を満たす自然数列の存在性」を終域側の変数に関する数学的帰納法で示しました。でもこれは終域が N だからできたことで、「漸化式を満たす何かの列の存在性」を示したいときはこの方法じゃダメですね。その辺が気になる方はこちらをどうぞ ↓

ほんとはこれをやってから自然数上の加法の構成をやった方がエレガントなのかもしれないけど、証明が長いからね……

そもそもペアノの公理を満たすシステムってどうやって作るの? って方はこちら ↓





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