Lock You!②

【根なし草】
地中に根を張らず、水に浮いている草。浮き草。浮き草のように漂って定まらない物事や、確かなよりどころのない生活のたとえ。
(出典:小学館 デジタル大辞泉)


「ゆうちゃんはどこですか?早く呼んでください」
不躾にそう言い放つ新入生、鍵屋葉(かぎや よう)は部室内にこれまでなかった緊張感を一気にもたらした。
言葉を継げずにいる俺たち2年生より一歩前に出た絆先輩は、開いているかさだかではない細い目を少し見開いて微笑む。
「ゆうちゃん、ってのは2年生の岩田ゆうちゃんのことでいいのかねー?ゆうちゃんのお友達かなー」
「そうですが。俺が誰かとか、どうでもいいでしょ。今後貴方たちと関わることもないです。改めて言いますが、ゆうちゃんを呼んでください。まだ来ていないなら待ちます」
鍵屋は未だに部室の入り口に立ち続け、微動だにしない。俺たちから視線を逸らすこともなく、しかし虚空を見ているかのようにも感じる。
岩田ゆう――俺たち2年生バンドのボーカル担当のアホが来ていないのは、部活にだけではない。昨年の10月の文化祭以降、病院のベッドから出られていないはず。そしてそれをこいつは知らない。少なくとも岩田の知り合いらしいこの無愛想な後輩は、文化祭以降岩田との接触が無かったということだ。
腕時計に目をやると時刻は夕方5時12分。暗くなるのが早くも遅くもないこの季節、西陽が窓から、と言いたいところだが部活棟の中でも僻地の元・軽音楽部部室には陽が差し込むこと事態ほぼ無い。
「灯夜くん、少しいいかい?」
鍵屋後輩が来てから口を開くことの無かった西城が小声で話しかけてくる。さてはお前、人見知りなのか?
「ようやく喋ったな」
「さすがに面食らうでしょ、これは。それより、ゆうちゃんのこと話した方がいいんじゃないのか?あのままだと帰らないよね、彼」
絆先輩がお得意の煙に巻くようなトークで鍵屋の相手をしているが、向こうは岩田を出せの一点張り。というか、よくそんなに話がもつな……そんなスキルどこで身につけるんだか。
岩田のことを話す、か……。俺たちさえ、半年経ってもまだちゃんと受け止めきれていない事実なのに、それをいきなり突きつけて大丈夫だろうか。ただまあ、慇懃無礼な後輩の態度を見ているとショックを受けさせてやりたい気持ちも正直ちょっとある。岩田、すまんな。
「ねえねえ、纏くん、まつりちゃん、ボクら
で口裏を合わせてさ、今日は学校にゆうちゃん来てないってことにしない?」
これまた黙りこくっていた雲谷が、唐突にぶっ飛んだ提案をする。 顔に似合わず思い切りが良いんだよな雲谷は……今回は悪い意味でだが。
その場しのぎにはなるかもしれない、けど、うーん……。その対応すると、明日以降来た時にまためんどくさいことになるぞ……。
「え、ゆうちゃん学校に来てないんですか」
それまで絆先輩と煩わしそうに話していた鍵屋葉は、背負っていたギターケースをおろし呆然としている。
しまった、俺たちの会話が聞こえたか……!?
「ごめーん、話がもたなくてちょっと喋っちったー。やっぱりまずかったー?」
まずいっすよ絆先輩!てへぺろ、みたいな顔してんじゃねえっす。張り倒しますよ。
雲谷も、「手間が省けたね!」じゃないんだわ。こいつら後々めんどくさいことになるの分かってないな?
今日は来てないというか、今日も来てない、明日も恐らく来ない。そこまで考えて、内心改めて気分が落ちる俺。急に目覚めたりしない限りあいつかここに来ることはもう無いのだ。
「病欠か、何かですか。あの人、割と元気だけはあると思うんですけど」
低く平坦な調子の声で話すが、表情は少し落ち込んでいるように見える鍵屋後輩。当初の勢いも少し失われている。分かりにくいんだか分かりやすいんだか。
こうなってしまったらしょうがない、この場はそういうことにしておいてお引き取り願うしかねえな……。今後の対処はその後ってことで。
「うわあ……次に来たときどうするんだか」
西城は若干目が死んでいる。お前はこっち側か。負けないようにしような……。
「急な体調不良?らしくてな。悪いけど、今日のところは帰ってもらえねえかな」
「そうですか、体調不良なのか。珍しいけど
、そういうこともある。あるはず。ゆうちゃんは間違いなくここに所属していた確認が取れたので、今日はこれで帰ります。また後日、あらためて――」
「おいおいおーい、岩田が体調不良ってのはどういうこった!?」
俺は今までの経験から、「これはまずい事態になったけどこの場はなんとか凌げそうだ」となった場面において、必ず何らかの外的要因でより事態が悪化する星の元に生まれていることを自覚している。今目の前でこれから起こることがまさにそれだ。経験云々は適当だが。
特徴的なやかましい声質、ポロシャツとデニムを纏ったデカい図体に色を抜き艶の失われたウルフヘア、俺を1年前にこの部室に引っ張ってきた張本人その人がドア全開の部室の入り口に立っていた(正確には鍵屋葉後輩の後ろに胸から上が見えているだけだが)。
いや、こいつ――倉持勇気先輩が何者でどうしてここに、とかはこの際知らない。Don't knowじゃなくてDon't careの知らない、だ。問題は、こいつが「岩田ゆうが事故に遭い入院しているのを知っていること」と「その件に関して鍵屋後輩に我々が嘘をつき口裏を合わせているのを知らないこと」、そして今のやり取りを恐らく一部聞いていたことだ。ここから導き出されるのは――。
「体調云々っつーことは、ようっっっっやく目が覚めたかァ!まだ本調子じゃねえってことだよな!ったく、目が覚めたならこのオレに真っ先に連絡してこいっつーの!岩田のやつ、意識不明だか昏睡だかなんだか知らねえけど、半年もグースカ寝こきやがって!どうせギターもド下手になってやがるぜー!ああ良かった良かった!あ、声もまたちゃんと出るようにオレらでリハビリしてやんねえとな!……んっと、ところでどちらさん?」
落ちろ。屋上の柵の向こうから川に向かって今すぐ落ちろ。
西城と絆先輩は顔から血の気がひいている。顔が青いってこういう状態を言うんだな……。
鈍感で天然の雲谷でさえ、これがまずい状況だと理解しておろおろしている。その反応が正しいよ……。
「意識、不明」
「なんだなんだお前ら!尊敬する偉大なOBがわざわざ遊びに来てやったってのに、出迎えの言葉1つ無しかよ!オレは悲しい!悲しいぞ!そんな連中に育てた覚えはないぞー!」
凍りついた部員面々を見て、盛り上げようとでも思ったのかわざとらしく泣き真似でおどける倉持先輩もといカス。
次の瞬間、部室の入り口でこちらを向いたまま動こうとしなかった鍵屋が振り返り倉持先輩の襟を掴む。
「ゆうちゃんが意識不明って、どういうことですか。軽音楽部に入ったことは知ってました。部活が無くなったことも知ってました。でも、そんなこと聞いてない。ここの人たちもそんなこと言ってない。どういうことですか!」
一本調子の話し口調だった鍵屋後輩が混乱している様子で声を荒げる。
「オワーッ!?暴力反対暴力反対!なんだよ誰だよお前!?」
倉持先輩、責任は重いっすよ。俺たちもだけどな。


続く



みんなのアイドル♥️♥️♥️♥️♥️今日も今日とてかわいい😍😍😍😍😍撲殺院阿修羅丸ちゃんですどうもお久しぶりです🥰🥰🥰🥰😍

現在時刻金曜日の30時前とかなので遅刻じゃないですよね?撲殺院は遅刻じゃないと思います。私が思ったら世界はそうなるんだよかわいいから。

現役文芸部員時代も最強に〆切ブッチしてたの今のうわごとメンバーだと多分私です。話が長いからしょうがないわね?長いわよ?

キャラクターいきなり多過ぎ😡管理しきれてないでしょ😡と思うから今出てる子たち簡単にまとめとくね。

岩田ゆう:2年生のキーマン。女の子だけど男の子。ギターボーカル。気弱だけど芯のある子。現在昏睡中!

灯夜纏:2年生。ツンデレにしたかったけどクズになってしまったギタリストの男の子。女の子にゴリラとか言う。ゆうちゃん好きだけど色々葛藤が多い。

西城まつり:2年生。まつりって名前良くない?作曲もできるキーボーディスト。ヅカっぽいイメージでしか書けなかったけど続編で1番掘り下げたかった子。

雲谷永久:2年生。ショタコンが災いして生まれた子。ショタの成長地雷です。ふわっとしてて優しくて天然でちょっと鋭い。ドラマー。

天童絆:3年生。永久くんとのキャラ被りで死んでる。おもちゃ屋の御曹司で狐っぽいイメージの子。喋り方がおかしい。これまたドラマー。

倉持勇気:卒業生で現在大学生。名前は歌手のYUKIの本名のもじり。爆弾ボイスって昔書いてたけど歩く公害で泣いちゃった。仲間思いだけどIQが低そう。卒業式でビンタされたりしてる。ギターボーカル。

鍵屋葉:1年生。岩田ゆうのストーカー。ゆうちゃんと名前が対になってる。


感想もらったら次の担当回は遅れなくなると思います。

じゃあな。