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2020年6月の記事一覧
虚夢十行 〜傘の夢〜
蒸し暑い曇り空から三角が降ってきた。親指の爪サイズのそれは様々な淡い色で丸い角が頭や肩を優しく叩いてくる。物や人に当たるとそれらは色のみ残して消えるため前を歩くサラリーマンのビニール傘は薄いオーロラに彩られていた。染める事を止められた自分の髪も同じように、という小さな期待をたたえ、前髪に目をやる。あ、と声を漏らす間もなく、透明な鋭角が胸を貫いた。針葉の霜に似た優しさと粉砂糖の切なさが熱となり、内
もっとみる虚夢十行 〜レンズの夢〜
「覚えたからな。お前の顔、覚えたからな」
太く威圧的な人差し指の先が向けられる。
注意しただけで、自分より歳下というだけで唾を飛ばさんばかりに怒鳴る男。相手がわめき散らすほど、こちらの頭は冴えてきて、社名付きの名札をすっかり把握してしまったほどだ。あとでしかるべく所に報告しようと顔を上げる。二階建てを超える車輪がクレーマーも、店も、全て薙ぎ払っていってしまった。真っ白の背景。ガラスレンズがこち
虚夢十行 〜テディベアの夢〜
柔らかな衝撃が顔を打った。思わずつぶった目を開く。手足のくたびれた小さなテディベアが顔面を包み込んでいた。気づけば足元にも大小色も様々なテディベアが辺り一面にいるではないか。愛らしさを感じる風景に無邪気なおかしさが湧き立つ。リボンのついたもの。つぶらな目のもの。ビロード生地のもの。片目の取れたもの。耳のちぎれかけたもの。ふと一体のテディベアと目が合う。それはかつて収集車に吸い込まれた友達。ここは
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