母と祖母 うつ病

晩年、祖母はうつ病を患っていた。

誰かに聞いた話、祖母は若い頃は臥せってばかりだったそうで、もしかするとずっと精神的に問題を抱えていたのかもしれない。

生まれた時から既に存在した祖母に対して私は違和感を感じることも無く。
病んでいたのかいなかったのか、私には分からない。

亡くなる数年前から祖母は精神科に通院していた。

うつ病であること、通院していること、全て母の口から知ることとなった。

ある時母が私に言った。
「ねぇ聞いてよ!おばあちゃま、ちょっとボケてきてるみたいなのよ。いやぁね。」

その言い方に戸惑う私を気に留める事無く、以降母は何かと言ってきた。

「ちょっと聞いてよ。おばあちゃまがまたトイレの水を流してないのよ。前にもあったんだから。やっぱりボケてるのよ。」

「おばあちゃま、ひょっとしておもらししたんじゃないかしら。きっとそうよ。自分で処理して。いやね。」

母が話す内容の真偽は分からない。
私に見える祖母はいつもと変わらない。

はっきりしているのは母が祖母を毀損しているということ。

事実はどうであれ母のその口調は、私としてはとても聞きたいものではなかった。

ある時母がひどく憤慨しながら私に言ってきた。

「ちょっと聞いてよ!さっきおばあちゃまを病院に連れて行ったら〇〇さんに会ったのよ!それがちょうど精神科の入り口のとこで会ったもんだから最悪!なんでこんなとこで会うのよ!もう・・・なんで私が!私がどれだけ恥かいたことか!」

私はその時初めて祖母が精神科に通っていることを知った。

どうして精神科に?と聞く私に母が言う。

「さぁ、うつ病とかなんとかみたいよ。ほんとかしらね。なにがなんでも病気にしたいみたいだから。」

私の記憶に残る祖母についての母の言葉はこれが最後。

次の言葉の時、祖母はもう亡くなった後だった。

ーー「自殺だなんて絶対に言っちゃだめよ!みっともない!」ーー

病状はどうだったのか。
直近で何かあったのか。
遺書はあったのか。
何か聞いたりしていなかったのか。

私の頭の中に浮かぶ様々な事は全て誰も語らないまま。

ほどなく父の弟夫婦が駆け付けた。
どんな話をしたのか、どう伝えたのか、私は知らない。

蚊帳の外で落ち着かないままの私に長兄が言った。
「あの人達はおばあちゃまの遺産ば貰うために帰ってきたっちゃん。」

実の親が亡くなり帰ってくるのに理由がいるのだろうか。
長兄の思考は・・・やはり母親とよく似ている。

その後、叔父は分骨をお寺に直接相談したそうだ。
実際に分骨したのか知らないけれど、お寺から父に連絡があり知る処となった。

叔父との間に何があったのか一切知らないけれど、なにかはあったのだろう。

祖母の葬儀の日、私は夢をみた。

たくさんの白い花で飾られた祭壇。
真ん中には私の写真が飾られている。
祭壇の前には正方形の炬燵が1つ。
私と祖母しかいない。
一緒に炬燵に入り静かに祭壇を眺めていた。

そんな夢をみたと母に伝えた。

「ちょっとあんた連れて行かれるんじゃないの?やめてよねー」

きっとそうなのだろうと思ったけれど、未だに連れて行ってもらえない。

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