長兄のお嫁さん 『都合いい人』

かわいそうな俺でいたい長兄は次へ次へと不満を探す。

彼は思春期から病がちだった。

高校生の頃に十二指腸潰瘍か神経性胃炎か。
大学生の頃にメニエールか過呼吸か。
実家へ戻りパニック障害だったか。

その度に家中が腫れ物に触るような空気になり、本人は誰に気兼ねすることなくそれに甘んじた。

母親に「お袋の育て方が悪かった!」そう何度も言っていたそうだ。

機能不全家庭である以上愛玩子も、放置子も、搾取子も。
置かれた立場は違えど健全でない環境は共通している。
長兄なりの不都合はあったのだろう。

その不都合を引き立てる、次は親だ。

長兄は結婚してほどなくお嫁さんに対する見方を変えた。
「あいつはかわいそうか子と。今までえらい辛か思いばして苦労して生きてきたと。なんにもできん女の子がやっとひとつずつできるごとなったとよ。」

一方的に悪態をつくことさえ許される『辛い思い』とは何なのだろう。
それを知り、それは仕方ないね。そう思える方が楽だ。
今からでもいいのでお嫁さんの人生に何があったのか聞かせてほしい。

散々クソ女と罵っていたことが無かったように続ける。
「向こう(お嫁さん)の家族はえらいよかもん。家とは大違いやん。俺はあっちの家族がよか。えらい羨ましか。あげんか家がよかった。」

長兄は自分の両親を『敵』とすることでお嫁さんと手を繋ぐ。
共通の誰かを責める事で出来る結束力。
その『誰か』は両親だ。

その頃のお嫁さんの態度はとても柔らかく、私が帰省した際に駅まで迎えにすら来てくれた。

あまりの変貌ぶりに驚きはしたものの単純に嬉しかった。
帰省して良かったな。そんな事を心の中で思いながらの迎えの車中、突然お嫁さんが私に言いだした。

「私、あなたのお母さまがどうしても駄目なんですよ。性格とか、もう生理的に受け付けないんですけどどうしたらいいですかね?」

唐突で不躾な言い様。
そこに車の運転をしている長兄が重ねる。

「おぉ。妹に聞いてもらえ。こいつならお前の気持ちばよーく分かってくれるぞ。こいつはお袋の事も全部分かっとるけんな。」

そう言い合う二人はニヤニヤしていた。

結婚前から一貫して嫌悪感剥き出しだったお嫁さんは、この時初めて私に好意的な態度を見せた。
そして隣には自分の親を馬鹿にさているのに嬉しそうな長兄。

私には理解できず、なんとか当たり障りのない反応をしたと思う。

その後、両親から現状を聞かされなんとなく分かった。

例えば敷地内に父が建ててあげた新居に両親は呼んでもらえず、お嫁さんサイドが頻繁に行き来しているという状況。

父はあれもこれも長兄にお膳立てしてあげてこの状況。

いつものように父の不満は私に捨てられる。
「あいつ(長兄)にどれだけしてやってると思うとか!あいつはいっちょん感謝もせんで!いつも俺は言ってるんだ。お前(私)ば見ろっち!」

父の言葉は止まらない。
「お前達は貧しいながらも世間の片隅でひっそり生きてるのに、あいつは誰のおかげでこんな生活が出来てると思ってるんだ!ほんなこつ、あいつは分かっとっとか!」

私達夫婦は確かに実家のように裕福ではない。
だけどそんな言われ方をするほどでもなかったと・・・思う。

そう見えたのだとして。
そんな風に見える娘に対する親心は・・・ない。
あるのは『あいつ(長兄)は俺のお膳立てがなければお前(私)のような生活になるのに何様なんだ!』という不満。

そんなことを毎回言う父に、私はどう反応すれば良かったのだろう。

父は私が結婚する時、私を自室に呼び言った。
「お前は結婚したら他所の人間になるんだからな。これからは何もしてやらんでよかな。」

長兄は脈絡なく突然非難を始める。
「大体お前は親父にいっちょん感謝がなかっちゃん!お前は感謝が足りん!もっと感謝しろ!」

私はこの人たちと居るのがすごく辛い。
私は・・・おかしいのだろうか。

自分に都合よく感情をスイッチするお嫁さん。
家族から都合よくサンドバックにされ続けた私。

長兄夫婦は似ている。
同類は、寄る。

あぁ、、、目の当たりにした時。
大袈裟だけれど私は絶望した。

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