大丸別荘

全国ネットでこの名前を耳にするとは思わなかった。

福岡ではとても格式の高い場所。

ここは長兄が結婚する時に両家の顔合わせで利用した場所。

「俺は親の決めたレールの上しか歩かれんっちゃん!」
「俺はどうせ好きな女とも結婚できん運命とやん!」
「俺の人生くそくらえ!お前に俺の気持ちが解るか!」

長兄の不幸オーラに辟易したのかどうかは分からないけれど、そんなに嫌ならお見合いを断れと父が言った矢先。

長兄と医者のお嬢さんに子供ができ慌ただしく両家の顔合わせが決まると私に無関心の母が電話をしてきた。

「お金を送るからいいスーツとバッグを買いなさい!ちゃんとしたのを買うのよ!いくらかかってもいいから!」

母が私にお金を出すのは自分にメリットがある時だけ。

自分の娘の実際がどうかということには関心が無い。
ただ自分の横にいる時、身なり麗しくしていればそれでいいのだ。

母に恥をかかせてはいけないと百貨店を何時間も回りCKのスーツとmiumiuのカバンを選び、くたびれて吐きそうになったことを覚えている。

付け焼刃の立派な出で立ち。
母の合格ラインを超えなければ汚いものを見るように貶される。

その役回りは大抵の場合次兄だった。

立派な場所で立派な身なりで立派な出自の二人が結婚前の立派な手順を踏む。

「子供が出来たとに結婚せんわけにいかんめーもん!」

子供のせい。家でそう言って。

今、私の大丸別荘に対する感想は『汚い』。

不特定多数の人が入浴するお湯を半年に1回しか換えておらず、当然雑菌の検出も凄まじい状況になっている。

立派な建物に立派なお庭、立派なお部屋に立派なお風呂、立派なお料理に立派な格式。

実際はどうだ。

重なって見えるのは偶然か必然か。

何気ない日常の中に、いちいち嫌な記憶が甦って嫌になる。

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