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十二夜

鏡の前に我あり
鏡のむこうに我あり

追って追われて
追われて追って

身をやつせし
うたかたに
生きるは
まことの哀れなり

たとえうつつに
生きるとも
むなしき恋に
いくかたもなし

歌舞伎座七月歌舞伎の演目は「十二夜」。W・シェイクスピアの原作を蜷川幸雄の演出にて行われる歴史的な見ものである。千秋楽は取れなかったが前日が手に入る。まずはセットの完成度の高さに驚く。鏡張りの襖、アールデコ調の天蓋、原作のテーマが何食わぬ顔をして歌舞伎という伝統の舞台にぴったりとよりそっているようにも見える。舞台の上ですでにこの見果てぬ夢とも思える東洋と西洋の恋は成就し実ったのではないかとも思える。
西と東の両親の血筋をうけてうまれでて勢いよくなく子のような新しい舞台だった。物語はまさに恋のスクランブル交差点うっかりしていると人波にさらわれる。こんなに恋ってキラキラしていたっけ? 唯一人として何かの支配をゆるすものがあるとすればそれは「恋」かもしれない。泥の中から顔をだして世界を見たドジョウのような気分。思いっきりひきこまれておもいっきり楽しんだ。なんだか通気性のよくなったかなと自分の心もち、芝居とはこういうものかもしれない。

(2005.7.31)劇評

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