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【脚本】オーディオドラマ「ビターテイスト」

中学3年の沙耶は父親と二人暮らし。
父の再婚に戸惑い反発してしまう。

作:みつる

登場人物

     佐々木 沙耶(ささき さや)
     佐々木 隆 (ささき たかし)
     山口 愛理 (やまぐち あいり)
     宮下 香織 (みやした かおり)

 

      SE 朝のテレビ番組 珈琲を淹れる音

沙耶   はい──砂糖いいの?
    あぁ、いい。

      SE 珈琲を飲む音

沙耶   ──苦くないの?
    この方が美味いんだよ。
沙耶   ふ~ん。
沙耶M  お父さんはそう言うけど、私は珈琲──というか、苦いのは嫌いだった。

      SE 食器を片付ける音

    沙耶、今日、晩ごはん、用意しなくていいから。
沙耶   食べてくるの?
    ほら、香織さん──この前、会ったろ? 今日、ウチにご飯作りに来てくれるから。
沙耶   は……?
    まぁ、改めて紹介と言うか──。
沙耶   ちょっと……ぇ、何それ──そんな急に……。
    香織さんも沙耶と話したいって言ってくれてるから──。
沙耶   私、友達と約束あるから……晩ごはん、いらない。

      M

    沙耶──。
沙耶M  別に再婚なんてしなくたって……この3年間、家事は私がやってきたし──それに、あの人はお母さんとは全然違うタイプだし──『何で?』って感じ……そんな簡単に忘れちゃうの? お母さんが可哀想……。

      SE 教室 チャイム

愛理   ねえ、沙耶……沙耶ってば。
沙耶   え──ぁ、何?
愛理   どうしたの?
沙耶   別に──愛理こそどうしたの?
愛理   さっきから、ずっと上の空だし……また夕飯の献立考えてた?
沙耶   何でもないよ……今日はごはん作らないし──。
愛理   え?
沙耶   あ……お父さん、出張で──だから、今日は……。
愛理   そっか──あ、じゃあ、今日は時間あるんだよね?

      M

沙耶   うん、まぁ……。
沙耶M  余計な嘘のせいで愛理に付き合う羽目になった。昔はよく一緒に遊んだのにな……いつの間にか、だんだん面倒になっていって……何でだろう──家の事、やるようになってからなのかな……。

      SE 夕方の公園

沙耶   こんな風に寄り道して帰るの久しぶり……。
愛理   たまには息抜きしないとねっ。
沙耶   うんっ。
愛理   ──良かった。なんか元気なかったんだもん。
沙耶M  いつも通りはしゃぎ回ってたけど、愛理なりに心配してくれてたのかな……。

      SE チョコを食べる音

愛理   チョコいる?
沙耶   うん。

      SE チョコを食べる音

沙耶   ん……え、何これ?
愛理   ビターチョコ。
沙耶   にがっ……。
愛理   え、なんか癖にならない?
沙耶   なんない。
愛理   何で~?
沙耶   苦いの嫌い。

      M

愛理   大人の味だよ。
沙耶   私、子供でいい。
愛理   沙耶~、皆、大人になっていくんだよ。
沙耶   はいはい、どうせ子供ですよ。
愛理   え、そんな事ないよ~、沙耶~。

      二人の声・FO

沙耶M  私が、お母さんの代わりにならなきゃってずっと思ってた──他の人が来たらお母さんの場所が取られちゃう様な気がして……何でお父さんの幸せを考えてあげられないんだろう──やだな……自分が嫌……大人になるって何なんだろう……。

      SE 夜の公園

沙耶   はぁ……。
沙耶M  愛理と別れた後も、私は家に帰らずにいた……何やってるんだろう──馬鹿みたい……帰ろうかな……。

      話し声が聞こえてくる

沙耶M  ふと、聞き覚えのある声がした……公園沿いの道を歩いていたのは、お父さんと香織さんだった──思わず木の陰に隠れた私は、その場で息を潜めた。二人が信号の前で立ち止まる。

      SE 道路

    もう3年になるのかな。沙耶がまだ小学生の時だから……まぁ……話したの、今朝だったから──急だったかもな……。
香織   沙耶ちゃんに会いたかったな……。
    ……今日はごめんね、待っててくれたのに……。
香織   ううん、気にしないで。
    いや……沙耶も喜んでくれるかと思ったんだけど……少し焦り過ぎてたかな……。
香織   でも、隆さんは、沙耶ちゃんの為を思って……。
    上手くいかないもんだな…………俺じゃ何もしてやれなくて、沙耶に頼りっきりだから……今年は受験なのに……。
香織   私……沙耶ちゃんを見てると、何だか昔の自分を見てるみたいで──私も、早くに母を亡くしてるから……。

      SE 猫の声

香織   あぁ、子猫……。

      M

    あ、親子かな……。
香織   ふふっ……猫ってメスだけで子育てするんだって。
    へぇ……母親って凄いな。
香織   うん……誰も代わりになれないもんね。
    香織さん……。
香織   また沙耶ちゃんに会いに行ってもいいかな?
    もちろん。
香織   私にも出来る事、あると思うから……。

      SE ドアの音

    あぁ、帰ったのか……お帰り。
沙耶   ただいま……。
    沙耶──晩ごはん、まだだったら、あるから……冷蔵庫に──。
沙耶   いらないって言ったでしょ。
    あぁ……沙耶の好きなの作ってくれたんだけどなぁ……。
沙耶   え……あぁ……明日、食べるから。
    そうか……。

      SE チョコを食べる音

沙耶   チョコ?
    あぁ、これも香織さんが──。
沙耶   えっ……珍しい、お父さん甘いの食べないのに。
    結構美味いよ。沙耶も食べていいよ。
沙耶   うん。

      SE ガラス戸開閉音

沙耶M  いくら香織さんが持って来たからって、そんな無理して食べなくてもいいのに……。
沙耶   ぁ、これ……作ったのかな?

      SE チョコを食べる音

沙耶   ん……苦いやつだ……もぉ……。

      M

沙耶M  これって──甘いのが苦手なお父さんの為に……。 

      SE 冷蔵庫を開ける音

沙耶M  冷蔵庫には、私の大好きなシチューが入っていた……シチューの中には、私の大嫌いなニンジンが入っていた。

      SE 冷蔵庫を閉める音 ガラス戸を開ける音

沙耶   お父さん──。
    うん?
沙耶   シチュー、ニンジン入ってる……今度から入れないでって言っと いて。
    そうか……あ、ニンジン嫌いだったか……。

      SE ガラス戸を閉める音

沙耶   はぁ……。

      SE チョコを食べる音

沙耶   んん……苦いなぁ……人生みたい……。
沙耶M  私、大人になるのはまだ時間かかりそうだな……。

      M・FO

                                ─終─

   


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