エマグラムを理解しながら〘大気の熱力学〙も理解するための記事【気象予報士試験学科/実技試験対策】

大気の熱力学でつまずいているそこの受験生へ

「おかえりモネを見始めて、気象予報士試験対策を始めたはいいけど、肝心な大気の熱力学が分からない…」

「実技試験対策に入ってみたけど、エマグラムがよくわからない…」

「一般知識のテキスト学習をしているけど、テキストだけじゃエマグラムとか持ち上げ凝結高度とか意味わかんない…。持ち上げ凝結高度って何?」

「どれだけ勉強しても過去問の熱力学の問題で点数が取れない…!」

こんな受験生は多いはずです。大気の熱力学は気象予報士試験における最初の鬼門といっても過言ではありません。

文系出身者や独学受験生には特にしんどい内容です。どちらにも該当するそら坊もとても苦労しました。

大気の熱力学はギターでいうFコードです。(ギター初心者が真っ先につまずく序盤の難所)

テキストだけでエマグラムが理解できない受験生へ

他にも

「テキストだけ読んでみても、どうもエマグラムがスッキリ理解できない…」

「エマグラムで何が分かるのかが分からない…」

「いろんな専門用語が出てくるし、そもそも熱力学もよくわからないからエマグラムが全然理解できない…」

なんて受験生も多いと思います。

一石二鳥!この記事でエマグラムと熱力学を一緒に理解しよう!

そんな受験生に向けて【文系出身・予備知識0・気象に興味なし・完全独学1年合格・アンチ数式派・個別指導講師】をしているそら坊から、熱力学とエマグラムを克服するための一石二鳥のnote記事を書きました。

エマグラムに関してまとめている情報がネットにあまりなかったので、独学受験生の助けになればうれしいです。

【自転車の乗り方を学ぶ】のはテキスト。【自転車に乗ってみる】のがエマグラム。

「でも、そんなうまい話があるの?」と疑問に思われる受験生もいると思います。でも、可能です。

そら坊は個人指導や自分のサイトでよく「学科試験対策は自転車に乗る原理を学ぶこと、実技試験対策は実際に自転車に乗ってみること。」と例えます。

どれだけ自転車の乗り方を頭で理解しても、乗れるようにはなりませんし、原理の全てをすんなり理解することは難しいです。

逆に、原理を知らずとも何度か挑戦するうちにいつか乗れるようになります。しかも一度乗れるようになると、最初は理解できなかった原理に関してもすんなり頭で理解できるようになったりもします。

今回は自転車で例えてみましたが、似たような経験が皆さんにもあると思います。

熱力学も同じです。エマグラムをいじってみることで熱力学の理解度がぐっとあがりますし、過去問で何が問われているかや持っている知識をどのように応用すればいいのかが断然分かるようになります。

なので、エマグラムを使いながら熱力学の学習を行うことで、熱力学もエマグラムもセットで理解できてしまいます。

しかもエマグラムを理解することで、その先の【ショワルター安定指数(SSI)】や【大気の安定度】【逆転層・安定層】【雲低高度・雲頂高度】等の知識の理解度も深まり、いいことづくめです。

この記事では、【実際のエマグラム用紙や鉛直温度分布図、そら坊お手製のイラストなどを使ったうえ】で【出来る限り数式を省き】且つ【平易で噛み砕いた日本語】で熱力学とエマグラムを解説していきます。

こんな受験生におすすめ

この記事は以下の受験生にお勧めです。

・熱力学/エマグラムへの苦手意識がある受験生

・文系受験生

・熱力学を数式や計算ではなく日本語とイメージで学びたい受験生

・一般知識試験を絶対に突破したい受験生

・スタートで挫折したくない初学者

これらにあてはまる受験生は、絶対に後悔させない記事となっています、是非購読してください。

この記事で分かること

この記事で理解できるものを箇条書きで纏めます。

熱力学の基礎・エマグラム・乾燥断熱線・湿潤断熱線・等飽和混合比線・状態曲線・持ち上げ凝結高度・自由対流高度・ゼロ浮力高度・対流有効位置エネルギー(CAPE)・対流抑制(CIN)・潜在不安定・対流凝結高度・対流温度・ショワルター安定指数・逆転層・接地逆転層・沈降性逆転層・前線性逆転層・移流性逆転層・温位の保存・エマグラム上での相当温位の求め方・温位、湿球温位、相当温位の位置関係・状態方程式とエマグラムを使った飽和のイメージ・乾燥断熱変化/湿潤断熱変化による物理量(温位・相当温位・混合比・水蒸気量・相対湿度)の保存に関して

この記事を読むための予備知識

この記事を理解するための大前提となる気象学専門用語の簡単な説明を行います。本当に最低限のものなので、これだけで理解できない方はお手持ちのテキストと照らし合わせて読んでみましょう。

ちなみに、この用語解説もなるべく平易な日本語で纏めていきます。

・絶対温度…普段使っている摂氏(℃)に273を足した数値。単位はK(ケルビン)

・温位…任意の空気を1000hpaまで下降or上昇させたときの、その空気の絶対温度。詳しくは温位に関してまとめたnote記事もあるのでそちらを参照してください。

・混合比…大気の湿り具合を表す指標の一つ。求めたい任意の湿潤大気を乾燥大気と水蒸気に分け【水蒸気の質量(単位はグラムorキログラム)/乾燥大気の質量(単位はキログラム)】で求めることができる。

・飽和…空気は水蒸気を含める最大量が決まっている。空気がその最大量まで水分を含んでいる状態のこと。なお、含める最大量はその空気の温度や気圧によって変化する。例えば暖かい空気は冷たい空気より多くの水分を含むことができる。空気の持つ水分量が、その空気の含める最大量を超えてしまう状態を過飽和という。

・凝結…空気が過飽和を起こしてしまったときに、水蒸気が水滴に状態変化すること。例えば空気Aの飽和水蒸気量が100、実際に含んでいる水蒸気量が70とする。空気Aを急激に冷却させ、空気Aの飽和水蒸気量が60になったとき、10の水蒸気があふれてしまう。この溢れた10の水蒸気が凝結を起こして水滴になる。

・潜熱…水分が状態変化【例:水蒸気(気体)→水滴(液体)】するときに周囲の空気に向けて放出するor周囲の空気から奪う熱量のこと。任意の空気が過飽和状態になり、水蒸気が凝結を起こして水滴になる際は、周囲に潜熱を放出するため、周囲の空気は加熱される。

・露点温度…未飽和の状態の任意の空気を冷却していくと、含める水蒸気の限界量が徐々に少なくなっていき、限界量と保持している水分量がイコールになる(飽和状態になるということ)温度が来る。この時の温度を露点温度と呼ぶ。飽和に達する温度/水蒸気が凝結を始める温度と思って大丈夫。露点温度はその空気が含んでいる水蒸気量と、周囲の気圧によって変動する。

・相当温位…任意の空気に水蒸気が含まれていた場合、その水蒸気が全て凝結する高度まで空気を上昇させ、潜熱を全て放出させきった後で1000hpaまで空気を下降させた場合の、その空気の絶対温度。詳しくは相当温位に関してまとめたnote記事もあるのでそちらも参照ください。

・湿球温位…湿球温度計によって測定した湿球温度を元に求められた温位。湿球温度は≦温度なので、ある同じ空気塊であれば湿球温位≦温位が成り立つ。

・断熱変化…任意の空気塊について考えるときに、外部からの加熱や冷却などの影響を受けないと仮定した状況のこと。ただし、その空気塊が湿潤で水蒸気を含んでいた場合の潜熱による影響は受ける。水蒸気はその大気内に含まれているため、大気内で熱のやり取りが行われているととらえると分かり易い。

・大気の鉛直温度分布…ある地点の大気を立体的に考えたとき、各高度における温度を記した折れ線グラフのこと。エマグラムに記される折れ線グラフの一つはこれ。これとセットで露点温度の鉛直分布を示した折れ線グラフが書かれていることも多い。エマグラムでは【大気の状態曲線】と呼ばれます。

・温度減率…基本的に大気は上昇すればするほど気温が低下する(逆転層・東温層などの例外もあるがそれらは無視。)。その際の温度と高度の関係を表す言葉。対流圏内であれば、大気は1km高度が上昇すると平均6.5℃気温が下がるとされる。数式であらわすと6.5℃/1km。

・乾燥断熱減率…未飽和の空気が上昇する際の温度減率。1km上昇するにあたり10℃気温が低下する。数式であらわすと10℃/1km。

・湿潤断熱減率…飽和している空気が上昇する際の温度減率。1km上昇するにあたり5℃気温が低下する。数式であらわすと5℃/1km。飽和している空気は、凝結を起こした水蒸気が潜熱を放出し、空気を加熱するため乾燥断熱減率よりも気温が低下しにくい。

では、前置きが長くなってしまいましたが、本題に入っていきましょう。

【エマグラムは原稿用紙】

まず、エマグラムが何かから理解しましょう。

作文を書くときに原稿用紙が、楽譜を書くときに五線譜が、英語学習ノートに罫線があるのと同じように【ある地点の大気の鉛直温度分布と鉛直露点温度分布】という2本の折れ線グラフを記すためのフォーマットが【エマグラム】と捉えてください。

別にエマグラムがなくても、それら二本の折れ線グラフは書けます。

が、それら二本の折れ線グラフだけで分かることはあまりありません。せいぜい【各高度の温度が何度か】【その大気がどの高度で湿っているor乾燥しているか】【雲が発生していそうか】【逆転層があるか】ぐらいです。

しかし、この【エマグラム】というフォーマットの上に二本の折れ線グラフを記すことで、その地点の大気の状態や今後のことが、より正確に・詳細に・直観的に理解できます。実際にエマグラムを見てみましょう。

これは実際の試験問題から拝借してきたエマグラム用紙です。第50回気象予報士試験の実技試験Ⅰに使われています。

エマグラム 白紙

エマグラム用紙でまず理解すべきものは【縦軸・横軸・乾燥断熱線・湿潤断熱線・等飽和混合比線】の5つです。

エマグラムの縦軸は高度

まず、縦軸。画像の縦軸を見てください。

縦軸は高度を表しています。ただし〘高度○○m〙のようにmであらわしていることは殆どありません。大体〘○○hpa〙で表現されています。高度が上昇すればするほど気圧は小さくなります。ここに関しては割愛します。1000hpaは大体地上付近(実際には地上気圧は1000hpaを超えること下回ることもありますね。)です。それに対して600hpaはより上空を指しています。実際のエマグラムは更に上空の300や200hpaまで続いていることも多いです。

余談ですが縦軸をよく見ると、1000~900hpaまでの100hpaと700~600hpaまでの100hpaでは区切りの長さが違うことに気づくと思います。これは誤植等ではなく、これが正しいんです。上空程気温が低くなり、同じ気圧でも層厚の厚さが異なってきますからね。しかし今回の熱力学を理解するにあたっては一旦ここは気にしなくて大丈夫です。もっとレベルアップした時に、ここにも着目する日が来るかもしれませんね。僕はあんまり気にしたことはありませんでした。次行きます。

横軸は気温

次に横軸。画像の横軸を見てください。

これはよくわかりますね。温度を表しています。横軸の右に行くほど気温が高く(暖かく)、左に行くほど気温が低く(冷たく)なっていきます。

注意すべきは単位が【摂氏〘℃〙】であることですね。観測した温度を記すにあたって摂氏の方が馴染みがあるからでしょうか。予備知識でも記しましたが、摂氏の値に273度を足した数値が絶対温度Kです。

以上から〘高度900hpaで18℃〙である場合以下の画像の赤●の点に点が打たれます。ちなみに18℃を絶対温度に変換すると291Kなので、〘高度900hpaで絶対温度291K〙とも言い換えることができます。

Inkedエマグラム 20do_LI

各高度において、気温が何℃を示しているかの点をプロットし、それらの点を全て繋げたものが【大気の鉛直分布図】として1つの折れ線グラフになります。露点温度に関しても同じです。

ここまではさほど難しくないと思いますが、ここから少し難しくなります。

エマグラム用紙に記された3種の線の概要

エマグラム用紙には乾燥断熱線・湿潤断熱線・等飽和混合比線が引かれています。以下のイラストに概要をまとめています。

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