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【ドラマ】舟を編む 第六話 熟字訓

たった今第六話視聴。放送直後からXで公式さんや脚本家さんたちのやりとりが流れてきたけど、目を瞑ってスクロールしてやり過ごしまっさらの状態で視聴。これを書いた後、追いかけてそれらを読むのが楽しみです。

今回は紙の辞書を作る意味を自分たちの情緒を超えて説明する必要性に迫られた辞書編集部の面々がそれぞれに「過去があってこその今の自分」をポジティブに認識する回であった。To be, or not to be. 辞書も自分も。

今まで一貫して私は「人生に無駄なことなど一つもない。全てはその後の何かに繋がっていく」という考えを持っているけれど、自分の過去のことは決して好きではない。自分の過去が頭にどんどん思い出されて、自分に関わった方々に申し訳ない思いでいっぱいになりさらに眠れなくなるという夜を頻繁に繰り返しながら、「過去あってこその今」というのを慰めの言葉にしている感じの方が近いかもしれない。過去のことを悔やんでいたのは今に始まったことではなくて、みどりの年頃の頃からあったように思う。小学生の時に傷つけてしまった友達のこと、中学生の時に傷つけられたこと、今だったら気付けたことに気付かず、心を尽くしてあげられなかった祖母のこと。ただ若い頃はそのよくない過去たちも目の前に無限にも思える長い時間でいい行いをして取り返していけるという根拠のない自信があって、今ほどは深刻にならずに済んでいたように思う。でも今、50代も半ばになってみると、希望を抱かせてくれるに絶大な力を放っていた「これから進む長い時間」がなくなりつつあるのが目視できるようになってしまった。となると、残るは眠れなくなるような過去ばかり。いやでも、まだ取り返せるかもしれない。今ある時間を使って、今、一生懸命生きれば!20代の頃よりも抱える過去の部分が重くなりながら、失敗ばかり思い出して眠れなくなりながら、それでも明日まで生きるために「今まだここに時間が存在しているんだからそれを生かせばまだなんとかなるかもしれない」と力弱く自分を鼓舞しつつの日々である。

そんな私が見た「過去あってこその今」の玄武書房辞書編集部の皆さんはとても眩しい。羨ましいを通り越してただ眩しい。荒木さんの独白で辞書にハマったせいで愛する妻が生死を彷徨っっている病床においても聞こえる言葉に反応してしまったというのがあったけれど、普通に考えるとそれは人としてひどいなと思える行為。であるけれど、何か人生を賭して打ち込んでいる人の姿としては羨ましい。眩しく見えるあの人たちの毎日にも、見方を変えればそんなによくない行為があるのかもしれない。見方か。何においても見方一つなのかもしれないな。

第六話で印象的だったのは熟字訓。私のmacでは「じゅくじくん」で一発変換できなかったので辞書登録する必要があった。実は全段落まで書いたあと激しく話がずれて延々自分語りを書いてしまっていたのを1週間経って冷静になって今ごっそり消した。もう第七話も見たのでいっそのこと第六話はこのままで七話のことを書こうかとも思ったけど、描き始める前につけていたタイトルを見て、後で自分の感想を思い出すために備忘録としてそれについても書いておこうと思う。熟字訓という存在を今回初めて知った。シーンに合わせて読み方が変わる漢字については長年日本人をやっているので馴染みがあったが、それまでは自分の中でそれはなんとなく存在していただけのものだった。熟字訓という立派な名前があるということを知ると今までぼんやりしていたものがくっきりとした存在となるのも面白い。ちょっと調べると当て字と熟字訓は似ているけれど違っているらしく、熟字訓はその単語に意味のある漢字に違う読み方をあてがっていて、当て字は漢字に意味はなく、音に対して合う漢字をあてているものらしい。そこらへんもぼんやりとした認識しかなかった。海外に在住していると何回かは「自分の名前を日本語で書いて!」と言われた経験があったりする。その時、なるだけいい意味の漢字を使おうと試みるものの名前全体に漢字で意味を持たせることはとても難しく、結局名前の音に合わせて一生懸命漢字をあてていく作業になる。これは当て字なんだな。「微風=そよかぜ」「海老=えび」のように漢字で意味がわかるものに日本語読み「訓読み」を加えたもの、それが熟字訓。意味のあるもの同士が合わさって別の意味を作って読み方さえも変えてしまうというのは思わず人間に当てはめてしまう素敵な現象だなと思った。

そうだ、第六話で特別に印象に残ったことのもう一つに若かりし頃の松本先生であった。柴田松本先生の雰囲気をそのままに若くした感じに胸が高鳴った。あの役者さんはどなたなのだろうか。松本先生というキャラクターに加えて、柴田恭兵さんがやられている柴田松本先生というキャラクターを理解して噛み砕いて取り入れなくてはならないことだと思うんだが、プロの役者さんて本当に素晴らしいなと思った。今回のこのドラマは細かなところまできちんと気が配られている。制作の人々と役者さんとどれだけの労力がかけられているのか想像もできない。こんな素敵なものを見せていただけて本当に感謝です。


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