愛を忘れて、恋に落ちる
彼氏以外の男の家で、寝てしまった。
一緒の布団で。
朝、薄暗い時間に目がさめたら、先輩の腕枕の中だった。
寝たふりをしたわたしのおでこや頬に、キスをしてきた。彼と違って、かわいいとたくさん言ってくれた。口が上手いんだなと分かっていても、その口先に転がされる幸福感に浸っていたかった。
彼よりもがっしりとした大きな体。
いつのまにか起きていることに気付かれてしまって、今度は首元にキスが降ってきた。やさしい口遣いが心地よく、ついに唇を許してしまった。
先輩の息は荒く、けれどわたしは安心感に包まれていて、このまま落ちていきたいと思った。
かわいいと連呼する先輩は、体を許して欲しいからなんだというのはわかっている。わたしはどこまで許そうか、と遠くで考えながら、気付けば先輩の唇が胸元にまで落ちてきた。上半身までだな、と決めて、流れに身を任せた。
時折り腰に回される手をほどきながら、私も先輩の体にキスをする。
彼への好きとはまた違う好きがあるなあと考える。この気持ちは何だろうか。
先輩の全ての行動を彼と比べてしまう。かわいいと言ってくれるところ、強くないかやさしく聞いてくれるところ。シャイな彼はかわいいと言ってはくれない。
生理なんだよなー、と思いながら、最悪口でしてあげようとぼんやり考えたけれど、結局すこし触れただけ。はてないほうが、ずっと好きでいてくれると思ったから。
先輩のキスはとても気持ちよくて、足りないくらいだった。愛を求めているのではなく、キスそのものだけを求めていた。
当直の先輩が、職場に現れた。
普段通り、を意識したものの、意識しているからか普段通りがぎこちなかった。
目が合うと朝のことが強く思い起こされてしまいそうで、目を見ることができなかった。
憎き生理に救われた、そんな日。
せめて三度目までは、許すまいと思う。
彼への気持ちは愛で、先輩への気持ちは恋だ。
恋は、自分本位だ。
この恋に、どこまで落ちてしまうのだろうか。
2023.12.27
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