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「嫌な気分」のメカニズムと解消法

否定的感覚

私がカウンセリングをしているクリニック、そして、これまでカウンセリングを行ってきたケースの中で共通する悩みがあります。

それは当たり前と言えば当たり前なのですが、「否定的感覚」です。

それが内側に向けば「自己否定」という現象になるし、外側に向けば「他罰的傾向」として現象化されます。

自己否定になるか、他罰的になるかは、その時の状況やその個人のパーソナルな要因で決まります。

では否定的な感覚とはどのようなものかというと、怒り、悲しみ、抑うつ、焦燥感、不安、緊張、恐怖、焦り・・・などのとにかくネガティブな情動ですよね。

このような情動が喚起されている時は脳内の生理現象として扁桃核優位の思考回路になっています。

扁桃核優位な思考回路の状態とは

その時人間はIQが下がり、「戦うか、逃げるか」というような状況になっています。例えば山で熊と遭遇したとします。自分たちが鉄砲を持っていたりと武装し、訓練も受けていれば「戦う」という選択肢も生まれます。

そうでなければ、いかに熊を刺激しないで逃げるかということに意識が向けられるでしょう。

ゆっくりリラックスして、熊の種類や大きさ、習性などに考えを巡らせていては死んでしまいます。

つまり、そのような状況下ではIQを下げて臨戦態勢を取っておくことが生き延びるうえでは最重要なのです。そうして私たちの子孫は生き残ってきました。

私たちの子孫はほんの100年くらい前まで、このような「いつ危機が起きてもおかしくない」という状況下で何万年も過ごしてきたので、その習性が抜けきらない方が自然なのです。

だから、私たち人間は習性上、落ち着きがない、集中しない、片づけられない、あきやすい、という何万年もかけて培った遺伝子が優位なのです。

この数十年でようやく情報空間で生きることが優位な文明になっているといっても過言ではないでしょう。

情報空間といえば、学校での勉強、企業で働く際に求められる創造性、集中力、抽象思考、自身の衝動性を抑制する力、というものが求められています。

それらの機能はすべて前頭前野に関わっている機能です。

原始的機能:扁桃核優位思考 VS 創造性機能:前頭前野

現代人は、原始的機能と創造性機能の狭間でいつも葛藤しています。それは自我が芽生えるときから始まります。

例えば、

・家の手伝いを言いつけられたが、忘れて遊んでしまった。

・宿題をしなければいけないが、TVや漫画に流れた。

・受験が迫っているが、どうしても関係ないSNSを見たりしてしまう。

・肥満や健康に悪いと知りつつ、酒、たばこ、甘いものに手が出る。

・将来設計を立てて実行しなければいけないが、長続きしない・・・

就学前から、成人に至るまでよくある葛藤の場面を選びましたが、誰にでも経験があることです。

そうして、脳内では常に戦闘状態に陥っているので「否定感情」が生じます。そして、その否定的なエネルギーは出口を求め、その出口は自分か他者に向かうかということになります。

理想の状況に近づけない自分を責めるか、環境や他人を責めるかということです。

マズローの欲求階層説

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知らない人はいないのではないかというぐらい有名な、マズローの欲求階層説です。

マズローは、初期に人間には欲求には5段階あるという説を唱えました。そして、晩年には、あまり知られていないのですが「自己超越の欲求」があるとしました。

最も基本的な欲求は「生理的欲求」です。食事とか睡眠とかの欲求で、これらをある程度満たすことができて初めて、人には次の「安全の欲求」が生じるようになります。

そして、自分が安全であることをある程度感じることができるようになると、3番目の「社会的欲求と愛・所属の欲求」が生じるようになります。

同様にして、4~6番目に生じる欲求は次のようになっています。

4.「承認・自己承認の欲求」:他の人から価値ある人だと見なされること、他の人の中で価値ある人であること

5.「自己実現の欲求」:道徳的であること、問題解決、先入観を持たないこと、事実を受け入れること

6.「自己超越の欲求」:創造性、自発性、子供のような素朴さ、文化の超越、至高体験

1~5段階までは、その段階をいかにうまく遂行しているかをジャッジしている「自己(自我)」があるので、常に否定的感覚がどこかに潜んでいます。

つまり「自己(自我)」の副作用として「否定的感覚」が自然に生じているわけです。「自己(自我)」と「否定的感覚」はコインの表裏と同じで、ある種、同じ現象の一側面を言い表しているにすぎません。

しかし、6段階目では、その「自己」を超越するわけですから、「否定的感覚」はありはするものの、それを無理くり取り除こうとはしません。

「否定的感覚」を雲のように眺めます。ネガティブな情動や状況があっても、一時のことだということが理解できているので焦りません。

「否定的感覚」という雲にフォーカスするよりも、全体としての絵を見ています。

私たちの生理現象は一日の内でもかなり変化する

私たちの生理現象は一日の内でもかなり変化します。空腹時、睡眠時、仕事などを行っている時、休んでくつろいでいる時、趣味など好きなことに没頭している時・・・

このように、マズローの欲求階層でいう6段階は、概ね自分の意識の状態の中心が1~6段階目のどこかを起点とはしているのでしょうが、

その起点を軸として、1~6段階目を1日の内に状況によってさまよいます。

例えば、5段階目、6段階目という発達の高水準に意識が達している人でも、急な腹痛に見舞われたら、トイレに駆け込むことを至上命題にするでしょう。他の人を多少かき分けてでもトイレを探します。この時、扁桃核は優位な状態です。

また、川でおぼれかけている状況を想像してみてください。5.6段階目の人でも、無我夢中でいて、救助に来た人を引っかいたり、叩いたりするかもしれません。その時は1段階目の生理的欲求が満たされておらず、扁桃核優位な状態です。

そのような状態の人を「攻撃的だ」「感情的だ」「IQが低い行為だ」と言って誹謗中傷はしません。

誰でも状況が理解されているから責める人はいません。

反対に、1段階目、2段階目にある子どもが、親に抱かれて安心な気持ちに浸り、4段階目や5段階目の状態を示すことも自然なものとして理解できます。

環境と状況という刺激で、その人の現在の状態が形成される

このように考えると、基本的な段階はあるものの、環境と状況を作ってあげることで、その人の発達的なパフォーマンスが上がり、理想的な成長を遂げ、状況に応じた理想的なパフォーマンスを行うようになることが考えられます。

しかし、冒頭で紹介した「否定的感覚」に四六時中侵されてしまった場合はどうなのでしょうか!?

それは、生理的に脳内の扁桃核が慢性的に過剰発火してしまっている状況です。

今現在目の前に熊がいなくて、おぼれかけていないのに、脳内の現象として熊と遭遇したり、川でおぼれかけているような生理現象が展開されているのです。

しかも周囲の人や、そして自分でさえも、目の前の状況で熊も川も見えないのに焦りと不安が喚起されているので、起こっている現象がより理解できず、コントロール不能です。そのため、よけいに自己無力感や、他罰感が強まってしまいます。

「否定的感覚」からポジティブな状態に移行する方法

step1:自分が自己否定感に襲われると、まず、脳内がおぼれている、熊に遭遇したというような状態になっていると、頭のどこかで理解することが大切です。

step2:脳内の誤作動で、扁桃核が発火していることが理解出来たら、体から「今ここ」は安全で安心な状況だということを伝えます。

以下に「QEの3点法」と「クイックコヒーランス」という二つの効果的な否定的感覚を解消する記事と方法を載せてみましたので参考にしてみてください。

「ーQE3点法のやり方ー」
Step1:「軽く目を閉じてください。リラックスして体の力を抜きます。左右のうちどちらかの指先に注意を向けてください。指先に何か触れさせてみましょう。机でも、自分の体のどこでも、何でも構いません。今、指の先はどんな感覚がしますか?冷たいですか?それとも暖かいですか?指の中に走っている血管の中の血流がジンジンとしている感覚がありますか?指先の皮膚の感触はピリピリする感じ?それとも湿っている感じでしょうか、またはカサカサと乾燥している感じでしょうか。それらの感覚はどのように感じられていますか?


 感覚が起こることについて解釈しないで、感覚のみに集中してください。
 指先と物の接点や、外気に触れている場所などを注意深くただ、努力なしに気づいてください。その間、他の考えがよぎったり、気になる事柄が浮かんだりして、指先の感覚を忘れてしまうことがあるでしょうが、そのようなことになっても、ただ指先の感覚に、努力なく戻ってください。
 途中、体のどこかに力が入っていることに気が付いたら、その力をそっと抜いて、また指先の気づきに戻って下さい。

 Step2:それが出来たら今度は、もう片方の手の指を、どこでもよいので触れてみてください。そして上記と同じ手順で同様に行ってみてください。

 そして左右の指先の感覚に同時に気づいていてください。

 Step3:左右の指先の感覚に同時に気づいていることを維持していると、どこからか安らいだ感覚、落ち着いた感覚、静かな感覚があることに気がづいたでしょうか?

 そうしたら、その安らぎ感、落ち着いた感覚、静かな感覚など心地よい感覚も維持します。

 つまりStep1~Step3までの3つの感覚を同時に維持し、気づいたままにいます。

 これを1~2分ほど続けてみてください。(※便宜上、指先を感じるのが難しい様でしたら、他の体の部分のどこでもかまいません。ご自身でやりやすいように行ってみてください。)

        『–クイックコヒーランスのやり方–』
<ステップ1>
まずはゆったりと椅子に腰掛けましょう。慣れれば、立ったままででもコヒーランスは実践できます。
ストレスから気持ちを切り離すために、心臓周辺に意識を向けます。この時、心臓の鼓動を意識しないようにしましょう。

<ステップ2>
心臓周辺に空気の通り道があることを イメージしながら、5秒くらいの間隔(5秒間で吐いて5秒間で吸う)で、ゆっくりと深呼吸をします。上手くできなくとも、あまり深く考えずに、スムーズに呼吸することだけ意識してください。

<ステップ3>
心臓呼吸を1-3分程度続けたあとに、肯定的な感情を想起してください。周りにいる人たち(家族・友人・ペットなど)を思い浮かべて、その人たちへの「感謝」の気持ちを感じることができる状況などを思い起こして下さい。
なかなかこのような感情を想起することができない人は、自分が一番落ち着ける風景や趣味などを想起することから始めてください。』


step3:前頭前野が活性化するようなことを行う。扁桃核優位な思考から、前頭前野の優位な状態に移行するために、自分の好きなこと、没頭できること、ワクワクすることを行ってみてください。

前頭前野の機能する情動の種類は、・嬉しい・楽しい・すがすがしい・誇らしい・・・というポジティブな情動です。

まとめ

自分が「否定的感覚」に落ちっていたり、慢性的にそのような状態であるとき、

大人だろうが、聖人だろうが、有名人だろうが、偉人だろうが、誰しもが人体の生理現象として否定的な感覚は生じるということをまず知っておいてください。

そして、

1.否定的感覚は悪いものではないということを知る。

―否定的感覚がなければ、私たちは危険に突っ込み生存率が下がり絶滅してしまいます。

2.否定的感覚が生じているのは、自然な生体反応であるということを思い出す。

―刃物で指を切ると血が出ます。血が出ない状況の方が危険です。出血するという現象のように、至極当然な生理現象が起こっているということです。

3.慢性的に否定的感覚に襲われている時は、低体温やけどのように、いつの間にか脳内がやけどを起こしている(炎症)状況で、偏桃体優位傾向になっていると知っておく。

―川でおぼれる、熊に襲われれる時に、不安と恐怖が喚起されパニックになるのが自然です。しかし、周りも自分もその脅威が見えないから、周囲とかみ合わない現象が起きやすいです。

―脳内は、おぼれたり、襲われているような状況の反応を示して理由があって当然な反応として起こっていると、理解する。そのことを「自分のせい」「自分が未熟だから」「自分が悪いから」「自分が至らないから」というような思考に収束しない。

―そのような否定的感覚を「自責的な思考」に収束してしまう傾向も一つの症状として捉える。

4.自分のペースで、前頭前野が機能することをやってみる。

―前頭前野は、創造性、論理性などを司ります。読書もいいですし、嬉しい、楽しい、すがすがしい、誇らしい、という情動に繋がることを少しづつやっていくことが大切です。

☆予防と回復には、十分な睡眠、栄養状態、そして適度な運動がなによりも重要であることが前提です。




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