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映画レビュー

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2020年4月の記事一覧

愛、アムール

あらすじ:パリ在住の80代の夫婦、ジョルジュとアンヌ。共に音楽教師で、娘はミュージシャンとして活躍と、充実した日々を送っていた。ある日、教え子が開くコンサートに出向いた2人だが、そこでアンヌが病で倒れてしまう。病院に緊急搬送され、かろうじて死だけは免れたものの、半身麻痺という重い後遺症が残ってしまう。家に帰りたいというアンヌの強い願いから、自宅で彼女の介護を始めるジョルジュ。しかし、少しずつアンヌの症状は悪化していき、ついに死を選びたいと考えるようになり……。 私の大好きな

ワンダーウーマン

あらすじ:人間社会から孤立した世界であるアマゾネスで生まれた王女ワンダーウーマンは、浜辺に不時着したパイロットを救う。第二次世界大戦が勃発しており、パイロットはドイツと戦っている米軍兵士であった。ワンダーウーマンは人間社会を救うべく立ち上がるのだった。 『ワンダーウーマン』は、1941年にDCコミックスで連載が開始。連載以来、女性解放運動のアイコンとして用いられてきたヒーローとのこと。今作品のワンダーウーマンが人間社会に降り立った時の男性たち(男性社会)の戸惑った反応から最

愛のむきだし

あらすじ:敬虔なクリスチャンの家庭に育ったユウ(西島隆弘)は、ある出来事を境に神父の父に懺悔を強要され始める。父の期待に応えようと、懺悔のために毎日罪作りに励むうちに罪作りはエスカレートし、いつしかユウは女性ばかり狙う盗撮魔となっていた。そんなある日、運命の女ヨーコ(満島ひかり)と出会い、生まれて初めて恋に落ちるが……。 『愛のむきだし』を映画館で観終わった後の脱力感はすさまじかった。今作品で先ず驚かされたのは、上映時間が237分という長さである。上映時間が長いと興行成績

サンセット大通り

あらすじ:ハリウッドのサンセット大通りに面するある邸宅のプールに、若い脚本家ジョー・ギリス(ウィリアム・ホールデン)の死体が浮かんだ。死んだ彼はそのいきさつを語る……。 『サンセット大通り』は大変好きな作品だ。初めて鑑賞したときの衝撃は忘れられない。特に狂気のラストシーンは必見。 ハリウッドの落ちぶれた大女優が警察に捕まるくだりである。大女優は警察や新聞記者に囲まれているのにも関わらず、精神が崩壊しているが故に映画スタッフに囲まれて映画撮影が始まるのだと思い込み、演技を始

東京上空いらっしゃいませ

あらすじ:事故死したキャンペーンガールのユウ(牧瀬里穂)が、天界人のコオロギ(笑福亭鶴瓶)をだまして地上に戻ってくる。彼女は、かつて自分をいじめていた上司・白雪恭一(中井貴一)に復讐をしようというのだが……。 今作品のあらすじを読んで、牧瀬里穂演じるユウがおどろおどろしく復讐するのかと思いきや全く予想外の展開に驚いた。何という瑞々しい作品であることか!!牧瀬里穂の舞台のような仰々しい演技が鼻につく作品かとも思ったが、牧瀬の輝かしい演技を上手く演出している相米慎二監督の力量に

シド・アンド・ナンシー

あらすじ:シドとナンシーのつながりを深めれば深めるほど周囲とのズレが広がっていき、傷つく二人が救いを求めれば求めるほどドラッグに溺れ、“死”に近づいていく……。 ゲーリー・オールドマンとクロエ・ウェップにシド・ヴィシャスとナンシー・スパンゲンの魂が降臨したかのような演技に見入ってしまった。 その為、シドとナンシーのリアルな人生の末路を見せられているように思えて心が震えた。それにしても、「シド・アンド・ナンシー」「レオン」「蜘蛛女」などなど、1980年代~1990年代のゲー

切腹

あらすじ:彦根藩井伊家の上屋敷に津雲半四郎と名乗る浪人が現れ「切腹のためお庭拝借」と申し出た。生活に困窮した浪人が「切腹する」と言っては、庭や玄関を汚されたくない人々から金品を巻き上げることが流行っており、家老の斎藤勘解由は数ヶ月前にやってきた千々岩求女という浪人の話を始めた。家老が切腹の場を設けてやると言い出すと、求女は狼狽したあげく、竹光で腹を切った上に舌を噛んで絶命した、と。話を聞いた半四郎は、求女は自分の娘婿であることを告げる。 武家社会の虚飾と悲劇を骨太に描いた作

友だちのうちはどこ?

あらすじ:小学校のあるクラスで、モハマッドが先生にひどく叱責されている。宿題をノートではない紙に書いてきたからだ。「同じことをもう一度やったら退学だ」と。 モハマッドの隣に座っていたアハマッドが家に帰って宿題をやろうとすると、親友であるモハマッドのノートを持って帰ってきてしまったことに気付く。 世界の巨匠アッバス・キアロスタミ監督の名作。親友のノートを間違って持ち帰ってしまった少年の冒険劇。親友の家までノートを届けるというシンプルな構成なのに、親友の家まで辿り着くまでの道の

渡瀬恒彦 銀幕に刻まれた不死身の役者魂

3年前、池袋新文芸坐にて渡瀬さんの追悼特集として鑑賞した「暴走パニック大激突」「狂った野獣」の備忘録です。 あらすじ:混血の元モデル・緑川ミチとバーテンの山中高志(渡瀬恒彦)は海外への生活を夢み、仲間の関光男と組んで、銀行強盗を続けていたが、神戸の銀行を襲った時に、光男が車にはねられて死んだ。光男の兄・勝男(室田日出男)は、浮浪者同様の生活をしていたが、山中と光男が銀行強盗をしていた事を知り、山中を追いかけ始める。 『暴走パニック大激突』は痛快アクション活劇で映画館で大笑

ボーダーライン ※ネタバレあり

あらすじ:FBI捜査官ケイトは、巨悪化するメキシコ麻薬カルテルを撲滅すべく、アメリカ国防総省の特別部隊に配属された。極秘任務に就いたケイトは、アメリカとメキシコの国境付近を拠点とする麻薬組織・ソノラカルテルと対峙する。 原題のSicarioとはスペイン語で『殺し屋』の意。このタイトルの殺し屋は、ベニチオ・デル・トロが演じている。この殺し屋が最後までブレずに冷酷非道で痺れた。彼が殺し屋になったのは麻薬カルテルに妻が斬首され、酸に娘が入れられ殺された為。家族が殺されてからの彼の

モーリス

あらすじ:1909年、ケンブリッジ大学。キングス・カレッジの寮生モーリスは、クライヴ・ダーラムと出逢う。クライヴは知性に満ち、ギリシャの古典的理想主義と同性愛の信奉者で、夏のある日、モーリスに愛を告白する。 私が高校生の頃、初めて鑑賞した「同性愛」をテーマにした作品である。10代の私にとって男性同士の「愛溢れる想いと葛藤」を観ることは初体験であった。愛する相手の髪に触れ、手に口づけをし、愛し合う。私の心臓が飛び出そうになるほどの衝撃であったことを覚えている。 20世紀初期

モダン・タイムス

あらすじ:工場で働く工員は、スパナを両手に次々と送られてくるベルトコンベアーの部品にネジを締めていた。ところが絶え間なく運ばれてくる部品を見ている内に、段々彼の頭がおかしくなっていき・・・。 機械文明の波が押し寄せた1930年代。「モダン・タイムス」は、そんな時代に製作された。作品冒頭、羊の群れが数秒映ってから工場へ出勤する群衆の映像に移る演出は、大変風刺が効いている。その工場で機械のように働かされる工員の精神が崩壊してゆく様は、正に「笑いと狂気は紙一重」な名演出で唸らされ

嘆きのピエタ

あらすじ:借金取りのガンドは、債務者の腕や足を潰して障害保険を払わす冷酷非道な男である。母親に捨てられ、天涯孤独に生きてきたが故に悪魔にならざる負えなかった男である。そのガンドの前に突如マリアのような微笑を称え、母と名乗る女が現れる。愛を知らず生きてきたガンドは、女に憤怒する。女はガンドに許しを請い、愛を注ぐ。母性愛に触れたガンドの悪魔の心は徐々に浄化されてゆく・・・。 世界の巨匠の一人である、キム・ギドク監督の『復讐と贖罪』をテーマにした作品である。今までのキム・ギドク監