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私がどうやって広東語通訳者になれたのかを紐解いてみる(38)- 『追捕/Man Hunt』- 現場に出る度新しい学びが -

通訳と翻訳のここまでのマルチタスクはそうそうあるものではないらしいのだが、初めて参加した映画の撮影だったのでこれが普通なのかどうかもわからず、とにかくやれることやるべきことを全力でこなした。

大阪府下での撮影

さて、撮影はざっくり分けて京阪神と奈良と岡山で行われた。大阪と奈良は近鉄グループホールディングスのロケ地マップがとても良い感じに作られているし、岡山のロケ地は岡山観光WEBが分かりやすい。それでも網羅はしきれていないので、ロケ地巡り好きな方は是非探してみていただきたい。

大阪府下での撮影は私も現場通訳には片足しか突っ込んでいない時期で、ハルカスは前に書いたヘリコプターの目視係、警察署内のセットではパシリ、とかだった。

中之島バンクスでの撮影時期は私もそろそろ本格的に現場に入り始めていた頃で、現場初の派手な爆破系やら、大砲と呼ばれる大きなクレーン使っての撮影を間近で観られて楽しかった。

カフェのガラス大爆破では、ガラスのどこに銃弾が当たってどう飛び散るか、その威力で何が吹っ飛ぶのか、どこまで壊れるのか、何色の煙がどの方向のどこにまで流れるのか・・・こんなにも緻密に計算して準備するものなんだ、スゲーと圧倒されるだけだった。しかも、物資や予算の制限があるから好きなだけ何度でも爆破できるわけではない。爆破の仕込みにはものすごく時間がかかるので、時間的な制約も本当にキツイ。爆破シーンの成功にはプロの皆さんの努力と準備と集中力が物を言う。このシーンの撮影だけでも私にとっては大きな学びだった。

アクション・チームの皆さんと本格的に顔を合わせたのもこの辺りからだったけれど、スタントマンの皆さんの安定したハイクオリティな動きに感心すると同時に、おいおい、本人そんなに機敏に動けないからバレバレだけどいいの?みたいな変な心配もしてみたり。おかげで自分でやってないのに本人は自分がやったと信じてプロモートしまくっているのには笑った。

私の測り知らぬ世界

だんじり撮影の時だったか。VFX担当男子(実は老闆)が手で画角作りながら「ソフィ、DPにここは70か45か聞いてきて~。」と言う。「え?何が70か45かなの?」「いいからいいから、DPはそれでわかるからさ~。」私は恐る恐るDPのTさんに聞きに行った。「VFXのA氏が70か45かって言ってます・・。」何のことか私にはチンプンカンプンなので、本当にこれで大丈夫なのかとドキドキしながら。「うーん、ここはやっぱり70だなぁ。」「は、はい。」「70だって」「やっぱそうだよなー」

何?何なの?何のことなの?あなたたちは何の話をしているの???

こんな初歩的でアホな質問していいのかどうか迷ったが、意を決してTさんに聞いてみた。「さっきAが言ってた70とか45って何なのですか?」超ジェントルマンなTさんは「あれはカメラの焦点距離の数字なんだよ。そしてね・・・」と優しく丁寧にたくさん教えてくださった。

さすがプロ同士。部門こそ違えどお互いの仕事の内容がわかっているからこそ、数字オンリーでも何が言いたいのか理解できるってことよね。プロって凄い。私はとても感動して、私も映画の制作や撮影のことをもっともっと知って理解して何が来ても何を聞かれても大丈夫なレベルになりたい!って思った。

陣中見舞い

撮影現場の日常を知らない私にとって驚きの出来事が起きた。

あっちとこっちのコミュニケーションのためにバタバタ走り回っていた私の目の前に何か大きな白いものがヌッと立ちはだかった。どうやらTシャツだな、誰だよ?と見上げたそこにあった顔・・・Eddie Peng 彭于晏だった。

「うおお!」と低い変な声が出た私。Eddie は「あれ?知り合いだったっけ?」みたいな表情を私に向けた。そりゃそうだよね。一般の女子なら「キャー!」って言うところをどす太い「うおお!」だからね。

てか、なんでーー!?なんで突然彭于晏が私の目の前におるん!?これは、大阪アジアン映画祭で Derek Tsang 曾國祥の『 Lover's Discourse 戀人絮語』で、絵に描いたような爽やかなイケメンを演じていた人じゃないのさ!陣中見舞いって、こんな大物がよれよれのTシャツと短パンでこんなに突然フラッと現れるものなん!?

香港人クルーの中に『破風』(邦題:疾風スプリンター)で一緒に仕事した子がいて「喂!Eddie!」とか親し気にしているのを見て羨ましく思いつつも、そこにちゃっかり入り込んだり、一緒に写真撮ってくださいとか言い出す勇気が無くて、結局、超間近で顔を見ちゃっただけに終わった。この勇気の無さをその後もずっと後悔しているので、これ以降、一緒に写真を撮りたい俳優たちにはちゃんと申告することにした。のだけれど、前に書いた是枝監督にはさすがに言い出せなかった。でも、是枝監督とはまたどこかでお会いできる気がするんだよね。根拠ゼロの勝手な感覚だけど。

さすが「天下の John Woo」 、陣中見舞いに来る顔ぶれが違い過ぎる。別ロケーションでの陣中見舞いにもぶっ飛んだのだが、それはまた後に書く。(続)

トップ画像は KINTETSU GROUP HOLDINGS さんの「映画「マンハント」ロケ地マップ」からお借りしました。ありがとうございます。

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