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『Long Arm Of The Law 省港旗兵』

ずっとずっと観たかったの。スクリーンで観られるとなったので迷わず買った。私が買った時もかなり売れていたけれど、今日の実際の入りも爆満。

Teach-in の二人の影片人は見たことがあるのだけれどお名前は憶えていない。ごめんなさい。特に手前の人は凄い勢いでめっちゃ喋るんだけど、よく構築されていてわかりやすい。ただ、いつも「後尾」(だと思う)の発音が一般的な(?) hau6 mei5 ではなく hau1 mei5 なのが引っかかる。違う単語を使っているのかしら?

この作品は麥當雄が監督をした唯一の作品だそうだ。その他の作品はプロデューサーを務めていて、大体は弟の麥當傑が監督を務めている。

最近は「素人」という日本語が定着してきているようだ。本作ではベテラン俳優はほとんどおらず、「素人演員」を多く使っていると言う。日本語単語の香港人への定着度に留意していなければ、突然「sou3 yan4」と聞こえて「素人」という字面が浮かぶことはないのではと思いつつ拝聴した。

そしてこの、当時の新聞広告の重要さと奇抜さを紹介してくれた。当時の映画はほとんどがキャストで売っていたが、この作品には有名俳優はゼロ、しかもほとんどが「素人演員」。麥當雄は知名度はある程度あるとはいえ、普通の宣伝では太刀打ちできない。なので監製・導演・策劃の3個巨頭を写真入りで載せて注目を引く作戦だったと。洪金寶と岑建勳という当時絶対的に知名度の高い裏方の顔がこんなに大きく写真で載る広告なんて見たことないでしょと。面白い。

麥當雄は非常に「寫實」であると影片人が言う。つまりリアリティ重視と。業界内では「麥當雄は狂ってる」と言われるのは寫實過ぎるが故なのだな。リアリティを追及しすぎて、大規模な爆破とか本当に火を放つとか、本気すぎて笑うしかない。林嶺東も無茶苦茶なことを許可も取らずに街中でゲリラ撮影したそうだけれど、この作品もメチャクチャ度は良い勝負だと思う。

「大圈仔」という単語が作品中で何度も出て来て、初めて聞く単語だったのでどういう意味だろうとずっと思っていた。この Teach-in の解説で理解した。『樹大招風』でも大圈仔を描いているけれど、時代が違うので、打劫の為に香港へ下りてきて仕事が終われば大陸に戻るこの頃の大圈仔と、もうすでに香港の居民として定着してしまっているところから始まるのが本作の設定とは随分違うとのこと。

真ん中の香港黑幫の阿泰を演じた沈威は、もともと演員をやっていたけれど暫く映画界を離れて律師樓で師爺(弁護士助手)をやっていて、映画界に戻ってきてこの役を演じ、最佳男配角を獲ったそうだ。ただし、車の中に縛り付けられて火を放たれたシーンは本当に火を点けた(車ごと焼いた)そうで、あの表情は本気で恐怖を感じたからだという。いや、あれはそらそうやろ。本当に火がついているのは画面から観て取れたし、あれはマジで死ぬかと思ったと思う。

この作品の大きなポイントの一つは九龍城寨の中での撮影、つまり本当の九龍城寨の姿が撮られて残っているということだと。歴史を残してくれているのだよね。そういう意味でも香港にとってとても重要な作品。

もう一つ重要なポイントは、主人公の大東が九龍城寨の中を走って逃げまわるシーンのカメラ。階段を上ったり下りたり、細い隙間を縫って走ったりをカメラが追う。当時のカメラは今ほど小さく軽量化されていなかったので、この緊迫したシーンはカメラマンの手柄が大きいと。

本作の武術指導はB哥こと陳會毅。クレジットに「陳會毅(洪家班)」と出ていた。B哥から一時期洪家班に所属していたと聞いていたので、ああ、この頃がそうだったのだなと確認できたのは嬉しい発見だった。命知らずアクションてんこ盛りで面白いのは洪家班が絡んでいるからというのもあるね絶対。

後半とはいえ1980年代から香港に入り浸っていた私は、当時の空気や場所を知っているだけに、懐かしく甘酸っぱい気持ちになりながら観た。尖東の夜總會やら銃を持って銀行や金行の店頭に立っている印度看更やら。実際に見たことがある私はラッキーだと思う。

一応「警匪片」とカテゴライズされてはいるが、随所に笑い処を入れ込んであって、場内大爆笑という場面が結構あった。私も一緒になって笑ったり「ほお、そうくるか」と独り言いってみたり。実に面白い作品だった。また劇場で観る機会があれば絶対に観る。

百老匯電影中心にて鑑賞。★★★★★

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