私がどうやって広東語通訳者になれたのかを紐解いてみる(35)『追捕/Man Hunt』現場通訳へ -
撮影開始 だが
そうこうするうちに待ちに待った撮影が始まった。が、制作部はバックオフィス業務がメインなので撮影現場には基本的に行かない。えー、現場見てみたいよー、行きたいよー、とお願いして現場見学に連れて行ってもらった。
人生初、映画の撮影現場。ガッツリ組まれた警察署内のセットに大がかりなカメラ機材にモニタールーム。これが映画かぁ。ワクワクした。
ヘリコプターで空撮
次の現場はオープニングロールに使われたハルカス。近鉄さんがドカンと頑張ってインバウンドの誘客施設なのに封鎖して使わせてくれた。ここでのダンスシーンをヘリコプターで空撮。ドローンを検討したのかどうか知らないが、とにかくヘリコプターで空撮と聞いてワクワクした。ヘリコプターを飛ばす許可だのヘリコプターのチャーターだの、手配が本当に大変だったけれど、とにかく空撮って凄い。
ヘリコプターを飛ばせるルートは航空法などで決められていて、海の方からハルカスに向かって飛んできて、通り過ぎたら別ルートで海の方向へ戻らなくてはならない。通り過ぎてUターンしてハルカスの周りをグルグル回って撮影することはできない。待機場所からハルカスまでと、通り過ぎてから待機場所まで戻る時間を計算したら、撮影チャンスは2回のみ。
ヘリコプターの待機場所がかなり遠く、現場との連絡はトランシーバーでは繋がらないので、待機場所を出る時に電話で「出発します!」と連絡することに。とはいえ待機場所から現場のハルカスにまでは10分以上かかる。そんなに長い時間ダンサー達を踊りっぱなしにさせるわけにはいかない。最接近した一番良い時に疲れて踊りが鈍っていたら目も当てられないから。なので、現場からの目視で遠くにヘリコプターを確認できたら音楽を流してダンサー達が踊り始めるという手筈に。
この時も現場に手伝いに行っていた私が目視係になった。ヘリコプターの飛行時間帯は限られているので、どんな感じで飛んでくるのかなどというリハーサルは無し。本番チャンスは2回のみ。目視のタイミングが遅くなってダンサーたちが踊り始める前にヘリコプターが接近してしまったらアウト。「ヘリコプターが見えた!」という合図がとても重要。かなりのプレッシャーだけれど、任されたからには頑張るしかない。
1回目のテイク。「ヘリコプター見えた!」とトランシーバーで副導演(香港側AD)に伝えると、現場でキューが出てダンサー達が踊り始めた。
私の周りの人達が「えー?どこ?見えないけど?本当にヘリコプター?」などと言うので、もしや私は早とちりしてダンサー達を不必要に早く踊り始めさせてしまったのではないかと心臓がバクバクした瞬間、バタバタバタバタとヘリコプターの轟音。タイミングばっちりだったよ、ありがとう、と言われて胸をなでおろす。待機場所へ遠ざかっていくヘリコプターを見ながら、先程「本当にヘリコプター見えてるの?」みたいな人達が「目が良いのねー、凄い!」とか変におだててくる。目も勘も良くて助かったよ、私。
2回目のテイクはヘリコプターが見えたポイントが少し近かったので結構ギリギリになって、実は私としてはこのテイクの方が冷や冷やだった。しかし、パイロットとカメラマンが本当に頑張った。1回目より更にギリギリまで近寄って撮ってくれた。数秒のテイクに命を賭けていた。
本編のオープニングロールでこのシーンを観た時は感動した。あの現場にいて、あのスリリングな数秒の撮影に関われたからこそ、こんなにも美しいシーンに出来上がったことに感動できたのだと思う。
いよいよ現場通訳にシフトしていく
ハルカスでの撮影は、準備期間のミーティングに始まり、監督と出演者との間の通訳をやったり、現場周りの通訳をやったりと、あちこちいろいろお手伝いした。専属の通訳が現場1人と撮影部付き1人だけだったので、その他諸々に使える通訳が足りていなかったから言われるがままにあちこちを手伝った。それを見て、こいつは使えるとなったのか、「ソフィは現場に入ってくれ」と言われ、望み望まれ現場に毎日入ることになった。
現場付きとはいえ、撮影現場(カメラ前)には優秀な通訳が一人すでに入っているので、私は何かあった時のサブな感じで、どこにポジショニングすればいいのかわからない。現場の司令塔である副導演にくっついておけば一番お手伝いになるかなと考えて、とにかくくっついて回った。必然的に常に監督の傍にいるようになった。
天下の吳宇森導演と世界の是枝裕和監督
とある現場で。主演俳優と次回作の打ち合わせがあるとのことで、是枝裕和監督が突然現場に現れた。是枝監督としては表敬訪問の意もある。「ソフィ!通訳やって~!」と呼ばれた。撮影合間のちょっとした時間だったけれど、天下の吳宇森導演と世界の是枝裕和監督との通訳だよ。ぎゃー!マジで?いいの?私で?こんな光栄ある?
お互いがお互いのファンでリスペクトし合っていて、至福の時だった。「僕ね、ウー監督の大ファンなんですよ・・・」「おや、ワシも是枝監督の大ファンですよ!」「え!そうなんですか!嬉しいです!」なんていうやり取りをしていると、こちらまで胸が熱くなる。吳宇森監督は日本映画の大ファンで、雑談時に私に教えてくれていた大好きな監督のリストの中に是枝監督の名前も入っていたから、ご本人には本当である旨お伝えしたらとても喜んでおられた。
私は日本映画を本当に観ないのだけれど、なぜか是枝監督の「海街ダイアリー」だけは観ていた。「とてもやさしい絵を作られる監督だな、って思いました」とおこがましくも感想を言ったら「じゃあそれはカメラマンの腕が良いんだね」とご謙遜。吳宇森導演もそうだけれど、本当の本物は自信に満ち溢れつつも謙虚なのよね。人として尊敬できるお二方。
当の主演俳優は「せっかくだから写真撮りましょうよ」と天下の吳宇森監督と世界の是枝裕和監督に挟まれて嬉々として記念写真を撮っていた。私だってそんな大物に挟まれて写真撮りたいよー!と思ったが言い出せず。
天下の吳宇森監督の素敵エピソードはたくさんあるので追々書こうかな。
大阪撮影での功労者達と。
(続)