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夕日

男は飽きた女と久々に会って求められるがままに体を交わした。

男はその前の晩、不機嫌な女の様子をみて別れを切り出すつもりだったから不本意なセックスではあったのだが、下腹部を雑に触られただけで情けない。

当たり前のことではあるが、男は言いたくもない言葉を女の耳元に吐いてから情けなく果て、快感と絶望のなかで眠りについた。

 

男は夢を見た。

中学3年の新学期初日、男はいつもより早く学校に行って3年生の教室がある3階に向かった。

すると、2階の踊り場で2年生になったばかりのやんちゃ坊主が「先輩、今日もお願いしますよ!」と可愛げのある声で男を呼び止めたので、男は階段を上がるのをやめて、案内されるままに2階の小教室に入った。

小教室は一般教室の半分ほどの広さではあるが、そこにあぐらをかいた10人ほどの男が輪を作って床に座っているだけでいっぱいのような感じがした。

輪の真ん中には競馬のすごろくがある。
ポットにプールされたシャー芯の山を見て男は心から嬉しそうに、楽しそうに笑っていた。

男はこの賭場の胴元である。

賭けに興じる男たちも胴元の姿を見て「親分いつもありがとう」とでも言いたげな顔をしながら首を少し落として会釈する。

胴元はご苦労と、まっすぐ伸ばした右の掌を肩の位置まで上げておろす。

男は満足げに階段を上がり3階につくと、まだ自分の入るべき教室が定かでないことに気づく。
少しの困惑で立ち尽くした後、通り過ぎようとする見知りの女に声をかけると「今日はみんな視聴覚室に集合だよ。急ぎな」と言ってそそくさと去っていった。

それについて行くようにして、開け放たれた視聴覚室に入るとすでに多くの人がすでに自分の席を見つけていた。

前の黒板に張られたA1程度の大きな座席表には右からA組、B組、C組、
D組と縦に席が配置されているようだった。

前の教卓には学年の冊子が山積みになっている。
それを手に取り開いてみるとクラス割が書いてありそうな見出しがあったので開いてみる。とすぐに自分の名前が視界に入った。
なるほど最初のページだからA組かと思ったが、自分の苗字の性質からして最初の行に入るような苗字ではないぞと不思議に思って冊子をよく見ると、名前の上に「学年のリーダー」と書いてある。

なるほどリーダーかと。悪い気はしない。

教員が入ってきたので近くの空いている席に適当に座ると、隣に気がある女が座っていた。
男は手にある冊子を指さしながら、「俺がリーダーとか意味わかんねぇよな、さっきまで賭場開いてたんだぜ」と笑いながら話しかける。
それを聞いた隣の女は上品な笑顔で「いつもいろんなイベント企画してくれて、すごいじゃない」という。

あぁこんな可愛い子と1年間一緒なのかと思ったが、すぐに自分が座った席は即席であることに気づいた。
男は焦ったように、隣の女に「そういえば、俺は何組なんだ」と聞くと女は

「夕日だよ」
と答えた。
男は「夕日?そんなクラスあるかいな」と大きなアホっぽい声で問い返して、女が見つめる方向に目をやると、窓に大きな夕日が映った。

男は目を覚ますと、しばらくクラス割の書かれた冊子を探したが、自分が中学生でもなければ、高校生でもないことに気づくと悲しい気持ちになった。

あの頃のクラス替えのわくわくはもう自分には経験できないのかもしれない。クラスという強制合コンイベントは最高だったなと。

男は隣で股を開いて寝ている裸の女をみて、もう一度眠りについた。

あの頃のわくわくは一瞬だった。夕日のように。


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