【小説】騒音の神様 18 神様吠える

神様は現場にあった椅子の上に立ち、拡声器を片手に吠えた。「ええか、大人は静かにせえ。子供達の音を街に響かせるんや。騒音はいらんねや。」神様は息を切らせていた。盛山の圧倒的に強い戦いを見て興奮していた。ただ、じっと隠れて見ていたわけではない。神様は音が鳴る機械、エンジンのかかったトラックなどを止めてまわりながら盛山の戦いを見ていたのだ。神様は話し続けた。「今の世ほど、子供がたくさんいる時代はなかった。平安時代にも江戸時代にもこんなにたくさん子供はおらんかったんや。わかっとるんか。」聞いている作業員たちは、痛みをこらえながら「知らんがな、平安時代のことなんか。」と言いたかったが、仁王立ちの盛山が恐ろしいので黙っていた。神様は言った。「ええな、静かにするんや。」そう言うと、スーパーカブの方へ歩き出した。盛山が後に続いた。

二人乗りでカブは走り出した。神様は興奮しながら盛山に話す。「盛山君、ええ戦いやったな。相手の反撃も良かった。良い戦いを見れたよ。」と言うと盛山も「そうですね、面白かったですよ。戦いがいがあった。」そう言いながらも、盛山は次の現場を探している。しばらく暗闇を走ると小さな建築事務所の仮説小屋があった。近づいて中を見てみると一人しかいないので、すぐに離れた。また暗闇にカブを走らせた。周りはうっそうとした森で、バイクのライトの光以外は真っ暗だ。真っ暗な中に、光が一つ盛山の目に入った。カブのバックミラーに光が映っていたのだ。盛山は後ろを振り返ると同時に神様が「後ろから車や。」と言った。後ろから来る車のスピードが明らかに速くなった。盛山はわかった、「俺らを狙ってる。」盛山の考えは正しかった。スピードを上げて走って来たのはトラックだ。トラックはスーパーカブを射程に入れて明らかにぶつけるようにまっすぐ加速した。盛山はバイクを脇によせる。トラックとスピード勝負では敵うはずもない。未舗装、土の地面にタイヤを滑らせながら道路脇の雑草ギリギリを走る。トラックが、バイクに幅寄せしてくる。盛山はブレーキをかけてトラックを前に出し、トラックの後ろを交差して走る。盛山は考えた。「このままやとやばい。戦わなあかん。バイクを停めて。」と考えている間にもまたトラックは幅寄せをしてくる、というより完全にぶつけに来た。盛山はバイクを茂みに飛び込ませた。真っ暗な森の中にスーパーカブを飛び込ませた。トラックがキーーっと止まった。カブの姿は森の中の暗闇に全く見えなくなった。

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