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【まとめ読み】騒音の神様 115〜117 竹之内、デカ男を倒す

次の日の朝、竹之内工業の社長、竹之内塊童は朝から万博の造成現場に向かっていた。竹之内がまたがるハーレーダビッドソンが、ドドドドと地鳴りのような音を響かせて走る。1960年代、ハーレーに乗る者は少なく、竹之内にとっては成功の証だった。
 竹之内は真っ直ぐ現場監督の元へ向かう。だいたいの出来事について話した後、監督からも話を聞いた。竹之内は監督に
「うちのもん、とりあえず休ませるんで、」
と言うと現場監督は
「いや、それはちょっと」
と言いかけてやめた。竹之内社長は喧嘩が強く、仕事においてもやり手だと言う事は、現場監督なら誰もが知っていた。また、何度も現れているヒジ打ち男の対策をしていない事もあり、現場監督は竹之内に強い事は言えなかった。
「わかりました。」
とだけ答えた。竹之内は、まず体と態度がデカイ男を探して現場内を走る。デカイ男が今日働いているであろう場所は現場監督から聞いていた。竹之内はデカイ男がいるであろう場所についたが、まだ誰もいなかった。竹之内は、デカイ男を待つことにした。ハーレーにまたがって待っていると、竹之内工業の、夜勤担当の者が走ってきた。
「社長、どないしたんですか、こんな朝から。何かあったんですか、」
と聞いた。夜勤の者は、何も知らない様子だった。竹之内は、
「そや、あったんや。ヒジ打ち男と、態度と体のデカイ男、この二人について何か知ってたら教えろ。」
聞かれた従業員は、自分が知っていることを竹之内社長に伝えた。竹之内は、
「そうか、わかった。助かる。今日はご苦労さん、気つけて帰れよ。直帰か、」
と聞くと従業員は、
「はい、僕は直接帰ります。何人かは会社戻ります。」
と言った。竹之内は、
「そうか。今日の昼のやつらは休みにした。怪我したからな。まあ、ご苦労さん。」
従業員は、心配になるような言葉を聞いてしまったので会社に戻ってみることにした。
「ヒジ打ち男、態度と体のデカイ男、うちのもんが怪我、こらえらいこっちゃ。どないなっとるんや。」

竹之内塊童が現場で待っていると、複数の作業員がやってきた。その中に、目立って大きな体格の男がいた。竹之内は、
「あいつやな。」
とすぐにわかった。大きな体の男、荒本は目が腫れていた。竹之内は堂々とまっすぐ近づいて行く。目当ての男の目の前に行くと、
「その目、どないしたんや、」
と竹之内は言った。荒本は
「ああ、これか。昨日、ちっちゃい奴がなんか、ちょこまか暴れててなあ。ちっちゃい拳が目に当たったんかなあ。手ぇも、ちっちゃいから、見えへんかったけど、ダハハハハ、」
とわざとらしい大笑いをした。それから荒本は続けて
「なんやオッサン、昨日のちっちゃい奴と知り合いか、」
と続けて話す。竹之内は話の最中に顔面に右ストレートをぶち込んだ。ドガっ、荒本の巨体がぐらついた。周りにいた男達がすぐに
「なんや、われいきなりコラ」
と竹之内に向かって来る。竹之内が何か動いたそぶりを見せた後、二人の男が崩れ落ちた。殴られた荒本が、鼻血を垂らしながら太い腕をハンマーのように振り回しながら、竹之内に突進して来た。竹之内は避けようとせず、前に出ながら荒本の巨体を体で受け止めた。それから左のボディパンチを腹に打ち込む。荒本は
「きくかいオッサン」
と言いながら腕を棒のように振り回し、竹之内に叩きつける。

荒本がバシンバシンと、太い腕をのばしとにかく竹之内を打ち付ける。竹之内は右手でガードしながら、荒本の大きな腹にボディパンチをドン、ドン、ドンと三発叩きこんだ。荒本が
「効くかい、何しとんねん、」
と言いながら両手で竹之内を突き飛ばそうとする。しかし荒本は急に体の向きを変えてうずくまった。
「はあ、フッ、フッ、フッ、」
と荒本は呼吸が出来ない様子で、でかい腹のどこかを手で押さえながら動かなくなった。竹之内は倒れた男達を見下ろしながら
「ええか。うちの従業員が通ったら頭下げろ。竹之内工業や。うちの若い者に失礼な態度とるなよ。ええな。」
そう言って竹之内は、無傷のまま堂々とハーレーに向かった。地面に響くようなエンジン音を轟かせてハーレーは走りだした。
 竹之内が去ってからもしばらくデカ男、荒本は動けなかった。他に倒された二人は起き上がり話しを仕出した。
「竹之内やないか、くそっ。荒本、えらい相手に絡みやがって。」
「あんな奴、勝てるわけないやないか。竹之内工業とは、揉めたらあかんねん。現場の常識やないか。くそっ、やってもうた。」
二人の男は竹之内に絡んでしまっていることに後悔しながら、
「くっそう。これは謝りに行ったほうがええかな、」
「あたり前や。手土産でも持っていかんと、仕事出来んようになるやろ。荒本のアホタレのせいで、くそっ、」
荒本がうずくまり、二人の男が嘆いている間に竹之内は出来たばかりの万博の舗装道路をハーレーで走る。

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