【連続小説】騒音の神様 31 上野芝、昼勤務に戻る

真っ暗な道を軽トラが進む。昼の賑やかさとは違って静かで本当に暗い。夜間工事をやっている場所はまばらだ。西側に着いたと思ったが、真っ暗でどこも工事している様子がない。「おらんなあ、こっちは夜やってへんのかな、」「あんまりウロウロしてたら、タイヤが穴とか溝に落ちてまうで。地面があんまり見えへん。」「そやな、危なそうやし、また明日の朝にするか。しゃあないな」等と二人で話しながら仕事に戻った。朝が来て、上野芝は交代の者達にヒジ討ち男のことを聞きまくり、また話しまくった。誰も昨日、ヒジ討ち男が現れたのを知らない様だった。上野芝ともう一人の男はまた軽トラに乗り、西側に走り出す。夜とは違い、人が多くトラックが走り活気がある。未舗装の道をどんどん整備して行く工事が進む。森が日々切り開かれて、造成地が広がっていく。上野芝は軽トラを運転しながら「規模がでかいし早いなあ。完成したらどないなるんや。」と感心しながらつぶやいた。
 西側に入ると工事の準備をしている作業員達に声をかける。ヒジ討ち男を見た作業員達はすぐに見つかった。作業員は「ああ、強かったで。俺らは遠くから見てただけやけどな。バイクのヘルメットにゴーグルつけたままでな。」「ヒジ討ちでガンガン倒して行きよったで。」「二十人くらいぶっ倒したん違うかな。わしら誰も近づきたく無かったから見てたんや。」「最後は背の低い爺さんが拡声器で吠えとったわ。子供の音を街に響かすんやー、言うてな。この現場の近くには子供なんておらんねんけどな。」等と、皆が口々に昨日の事を話してくれた。その話を聞きながら上野芝は早く戦いたくて仕方がなかった。ヒジ討ち男にやられた上野芝の相棒は「うわ、二十人か。えげつないな、」とつぶやく。だが上野芝がやる気満々なので弱気な発言はしないように気をつけた。上野芝は、「その男、俺が倒すからな。まあ楽しみにしてて。」と言うと、「兄ちゃん大丈夫か、相手ごっついぞ。」「素手では無理やで。」と言われる。それでも上野芝は自信満々に「大丈夫や。俺の合気道でぶん投げたるから、」と言った。皆は「へー、合気道か。頑張れよ、頑張って戦ってくれ。兄ちゃん元気そうやから応援するわ。」「現場やられっぱなしはオモロないからな。倒してくれよ、」と言ってくれた。それから上野芝たちは軽トラで自分達の会社に戻ると社長に「おれ、また昼に戻るで。ヒジ討ち男が昼出よったからな。」と告げると早速近くの空き地でまた稽古を始めた。「早よこいよ、ヒジ討ち男。ぶっ倒したるからな。」上野芝は一人で全力でトレーニング、いや稽古に没頭した。


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