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【創作物語】騒音の神様 114 松原、隕石が落ちて来るのを願う夜

それぞれが皆、社長の事を考えながら家に帰った。松原も家に送ってもらう車中、「俺はやってしもた。社長に迷惑かけてしもた。俺が負けたからや。ヒジ打ち男に俺が勝ってたら、こんなことになってない。くそっ、くそう、」とパンパンに腫れ上がった顔で、もごもごと話した。松原は色々と社長の事を、同乗している者達に伝えたかったが口が上手く動かずに言えなかった。それもまた松原は悔しかった。
家に帰ってから、松原は珍しく鏡を見た。ほとんどふさがった目から見える自分は、自分の顔ではなかった。「こんな顔、ボクシング時代も無かったわ。泣けてくるわ、」そう言いながら流し台にむかい、頭から水をかぶり続けた。氷は無かったので、タオルに水をひたして顔にかけて横になった。「はあ、明日どうしよ。明日どうしよ。社長、現場行くやろな。万博行くんやろな。俺、どないしたらええんや。社長、暴れるかな。会社、大丈夫かな。俺が一番、社長の役に立たなあかんのに、ボッコボコや。どうしたらええんや。わからん。わからん。」松原は、考えながら意識を失うように寝た。意識がある間に思った言葉は、「明日来んな、あした来るな。隕石でも落ちてこい」だった。


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