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【連続小説】騒音の神様 93 松原、ヒジ打ち男を見る

松原が担当している場所には、他の会社や他の業務の作業員も入り混じって作業していた。三十人くらいがワイワイと様々な作業を進めている。松原は高石に「お前らはあっち側やっとってくれ。俺らはこっちや、」と仕事の指示を出す。高石達は少しだけ移動して、また仕事を進める。皆が主に地面を見ながら、汗だくで仕事をする。ぬぐってもぬぐっても、汗が出てきて土の地面に落ちていく。松原は自分も作業をしながら、他の者達にも目を配る。全体的な仕事の進み具合を気にしながら汗を流していた。「もうちょい進んだら、休憩しよか。もう一踏ん張りや。」そうまわりに声をかけた。辺りはダンプカーが出入りしたり、チェーンソーで木を切ったりしていて松原の声は届きにくかった。工事の音を包み込むように、セミがけたたましく鳴いている。松原は、高石達が作業する方向を見た。何やら、仕事とは違う雰囲気だ。皆地面を見ずに、立って何かしている。仕事の姿勢とは違った。「誰かと話してるんかな。誰か来たんかな。」松原がそう思った瞬間、人がぶっ倒れるのが目に入った。松原は分かった。すぐに声を張って周りに怒鳴る。「来よったぞ、みんな行くぞ。手の道具、なんか持ってこい、」そう言いながら松原は走りだした。猛スピードで。「来よったか、ヒジ打ち男、すぐ倒す。」松原の視線の先にはバイクのヘルメットを被った男がいた。また誰かが吹っ飛んでいた。

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