【連続小説】騒音の神様 32 盛山、夜間工事を楽しむ

上野芝がヒジ討ち男を待ち侘びている間、ヒジ討ち男こと盛山は夜間工事で働いていた。夜は昼と全く違う雰囲気で、本当に暗くて静かな森だ。風の音と虫の音だけの場所に、工事の爆音を轟かせることになる。神様が静かにするんや、と言っている騒音をそのまま盛山が出しているのだった。また盛山自身も、自分がまさにやっている仕事の現場に乗り込みヒジ討ちをくらわし、真面目に働いている男達をぶっ倒しているのだった。そんなことをふと思うと、盛山は何か可笑しかった。そんな矛盾を分かりながらもあまり深く気にせずに、盛山は夜間工事を頑張る。
 1960年代、日本は急速に上水道、下水道、ガス工事、電気、道路を整え始めていた。人の生活はハイスピードで変わり始め、そのスピードは音となってあらわれた。夜の静けさに轟音が響く。地面に穴をあけて配管を埋め込む。盛山は、自分の仕事が楽しかったし、やり甲斐があった。工事の後には町が変わっていく。重い物を力ずくで運び、皆で力を合わせ時に声を荒げながら仕事を進める。人間が持てない重い物を運ぶ時に、大きな音がする。
 盛山が夜働いている間、神様は夜の町を散歩していた。轟音で町を震わせている、夜間工事に近づいて思った。「時代、時間の早さを縮めるときに、爆音が鳴るんやなあ。それが騒音なんやなあ、きっと。」神様は、自分で思いついて口にした言葉にすごく満足した。「わし、ええ言葉思いついたなあ。でもきっと、そうなんや。」

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