(小説)騒音の神様 その9 盛山スーパーカブに神様を乗せて

盛山は、譲り受けたスーパーカブの操縦を確認するように走る。アクセルを回す、ギアチェンジをする、角を曲がる、ブレーキをかけて止まる。家まで遠回りをしながら町を走った。盛山は家に到着すると、神様が玄関に出て来ていた。神様は「家の前でバイクの音がしたから、もしかしたら盛山君かと思って」と嬉しそうに言う。「神様、今から走りにいきませんか」と盛山が言うと神様はすぐさま「行く行く」と言って外に出た。神様はスーパーカブを眺めながら「これか、ええな、かっこええな。これが世界のスーパーカブやな、」と興奮していた。盛山は部屋から工事用の安全ヘルメットを持って来て神様に手渡しながら「これかぶってください。安全のために」と言うと神様は「わかった。」と言いながら安全第一と書かれたヘルメットを楽しそうにかぶった。神様の長い長い経験の中でもバイクに乗るのは初めてのことだった。神様は、盛山のゴツい背中にしがみつきながら初めてのバイクを楽しんだ。何度か夜間工事に出くわしたが無視した。夜遅くまで興奮しながらあちこちを走り、盛山の背中から見える景色を、新しい文明の利器の音を楽しんだ。

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