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【連続小説】騒音の神様 101 松原達の悔しい一日

無駄に胸を張って歩く荒本に、他の男が声をかける。「えらい腹出とるで。ほんまに百キロか、」荒本は、「ほんまは百二十キロや。いや、百三十かもな。とにかく重たいんや、オレは。重さは強さなんや。」そう言いながら仕事を再開した。
 少し離れた場所では、松原が水を頭から被っていた。そして周りの皆に「みんな、すまんな。勝てんかった。情け無い話しや。みんな、すまんかった。怪我は無いか、大丈夫か、」と気丈に話していた。松原は悔しくて仕方がなかったし、体のダメージも相当なものだったはずだ。高石が口を挟む。「松原さん、大丈夫ですか。一番戦ってくれてたから。俺、なんも出来んで。俺、めちゃくちゃ弱くて。」松原はすぐに「大丈夫や。みんな怪我ないんやったら、仕事再開するぞ。じっと寝てる暇は無いんや。さあ、皆んな戻れ戻れ。」。松原はそう言いながら口から血をにじませ、足元をふらつかせながら持ち場に戻った。皆は、「何も言わんほうがええ」「何を言うたらええかわからん、」そんな気持ちでとにかく持ち場に戻った。皆、どこか怪我していたし、どこか痛かったが口にする訳にはいかなかった。力の入らない腕で無理矢理シャベルを使ったり、痛めた足を引きずりながら、汗を流していた。

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