【連続小説】騒音の神様 33 上野芝、ヒジ討ち男を殴る

上野芝は万博造成現場でヒジ討ち男を待ち侘びながらも、懸命に働いた。現場はどこも活気があり、トラックが頻繁に出入りしている。昼間は、弁当を売る車もやって来て大賑わいだ。上野芝は、弁当を買うときに周りにいる見知らぬ作業員達に声をかけた。「ヒジ討ち男って知ってるか、」「ヘルメットとゴーグルつけて、いきなりヒジ討ちくらわして来るんや。」「ヒジ討ち男が現れたら、俺呼びに来て欲しいねん。」「めちゃくちゃ強いらしいからな、勝てるのは俺くらいや。」等と話かけて自分の居場所を伝えた。上野芝の予想を下回って、ヒジ討ち男を知らない人が多かった。色んな業種の人達が大きな現場に集まる。大阪以外からも職人は来ていたし、日雇いの人もたくさんいる。上野芝は、これはチャンスだと思っていた。「俺がヒジ討ち男を倒すチャンスや。あんまり噂が広まると、ヒジ討ち男を倒したい奴が集まるやろ。あと、元請も警察呼ばなあかんようになるかもしれん。大騒ぎになる前に、俺がヒジ討ち男を倒すチャンスなんや。」そう同じ場所で働く男達の前で上野芝は熱く語る。ヒジ討ち男にじかにぶっ倒された者が何人もいたので、皆が上野芝の話を真剣に聞いた。その上で、皆ヒジ討ち男をどうにかしてやっつけたかった。
 明るい太陽の光の下、皆が懸命に汗をかきながら働いていた。上野芝は仕事中、トイレに行きたくて仕事場を離れた。「ちょっとトイレ行ってくる、」と言い小走りで用を足せる場所をしばらく探す。それから用を済ませて、落ち着いて上野芝は仕事場に歩いて戻る。上野芝は歩きながら、自分が戻る先を普通に見た。いつもと何か違う雰囲気だ。そしてすぐに気付いた。「しもた、あいつが来てる。」上野芝の視線の先に、ヘルメットを被った男が一人、ヒジ討ちで作業員をぶっ飛ばしていた。十人位の男達が、手に何か武器となる道具を手にしてヒジ討ち男を取り巻いている。何か大声らしき声が聞こえる。上野芝はダッシュした。「しもた、最悪のタイミングで離れてしもた、くそ。」上野芝は猛スピードでヒジ討ち男に向かって走り込み、取り囲む作業員達の間をすり抜けて「オーーラ」と大声をあげながらヒジ討ち男の顔面にパンチを繰り出した。バチンッ、上野芝のパンチが確実にヒジ討ち男こと盛山の顔にヒットした。作業員達から声があがる。「よっしゃ、上野芝いったれー、」「行けー、上野芝、倒せー」

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