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そんそんの教養文庫(今日の一冊)

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一日一冊、そんそん文庫から書籍をとりあげ、その中の印象的な言葉を紹介します。哲学、社会学、文学、物理学、美学・詩学、さまざまなジャンルの本をとりあげます。
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#自由

キリスト者は何人にも従属しない自由を持ち、かつ何人にも従属する——ルター『キリスト者の自由』を読む

マルティン・ルター(Martin Luther、1483 - 1546)は、ドイツの神学者、教授、聖職者、作曲家。聖アウグスチノ修道会に属する。1517年に『95ヶ条の論題』をヴィッテンベルクの教会に掲出したことを発端に、ローマ・カトリック教会から分離しプロテスタントが誕生した宗教改革の中心人物である。 冒頭に引用した『キリスト者の自由(ドイツ語:Von der Freiheit eines Christenmenschen、ラテン語: De libertate chris

「自由意志とは幻想である」——スキナー『自由と尊厳を超えて』より

バラス・フレデリック・スキナー(Burrhus Frederic Skinner, 1904 - 1990)は、アメリカ合衆国の心理学者で行動分析学の創始者。20世紀において非常に影響力の大きかった心理学者の一人で、自らの立場を徹底的行動主義(radical behaviorism)と称した。 スキナーは自由意志とは幻想であり、ヒトの行動は過去の行動結果に依存すると考えていた。もし過去の行動結果が悪いものであったなら、その行動は繰り返されない確率が高く、良い結果であれば、何

自由の本質とは「状態」ではなく「感度」である——アーレントによる自由の定義

本書『「自由」の危機 ――息苦しさの正体』は、2020年9月の政府による日本学術会議会員の任命拒否問題に端を発して組まれた特集である。筆者には、姜尚中、佐藤学、上野千鶴子、小熊英二、高橋哲哉、苫野一徳、内田樹などが名前を連ねる。「学問の自由」、ひいては私たちの生活における「自由」を守るために、さまざまな文筆家やジャーナリストが筆をとっている。 引用したのは哲学者・教育学者の苫野一徳氏の文章である。苫野氏はルソー、ヘーゲル、アーレントといった哲学者たちがいかに「自由」を論じて

マルクスが指摘した労働者の「二重の自由」とは

誰もが知っているカール・マルクスである。資本主義社会の限界や、新しい資本主義といったことが唱えられるようになった今日、また新たなマルクスが求められているかのような感もある。1989〜91年にソ連や社会主義東欧諸国が次々に崩壊した。共産主義という大きな社会実験が終わり、マルクス主義は一旦「オワコン」化したかに見えたが、決してそうではなかった。マルクスの書を読むと、まるで現在の資本主義社会の最終的な状態を予言しているかのようなことが多く書かれているのである。マルクスはまだ終わって

人間は人間であるというただ一つの資格によって平等である——金子文子『わたしはわたし自身を生きる』を読む

金子文子(かねこ ふみこ、1903 - 1926)は、大正期日本のアナキスト(無政府主義者)。23歳で獄中死した。壮絶な人生であった。関東大震災の2日後に、治安警察法に基づく予防検束の名目で、恋人である朝鮮人朴烈と共に検挙され、十分な逮捕理由はなかったが、予審中に朴が大正天皇と皇太子の殺害を計画していたとほのめかし、文子も天皇制否定を論じたために、大逆罪で起訴され、有罪となった(朴烈事件)。後に天皇の慈悲として無期懲役に減刑されたが、天皇の特赦状を破り捨て拒絶。最期は刑務所内

「自由」を捉えなおす——戦後的価値が劣化する社会への処方箋

著書の西谷修さん(1950 - )は、日本の哲学者。東京外国語大学名誉教授。元立教大学大学院文学研究科(比較文明学専攻)特任教授。バタイユ、ブランショ、レヴィナス、ルジャンドルらに影響を受けたフランス現代思想が専門の人である。 本書『私たちはどんな世界を生きているか』では、現代の特徴として、平等社会の最階層化(格差の固定化)、民主主義の「劣化」、権威主義の台頭、ポスト真実、ポストヒューマンの時代となっていることが挙げられている。それは、一言で言うならば、「戦後的価値の劣化」

「平等主義的社会」とは何を意味するのか——『万物の黎明』を読む

本書は、人類学者デヴィッド・グレーバーが、考古学者デヴィッド・ウェングロウとの共著で書いた「The Dawn of Everything: A New History of Humanity」の翻訳であり、多くの論壇で話題となっている書である。デヴィッド・グレーバーは「ブルシット・ジョブの理論」でいまやかなり有名であるが、2011年のウォール街を占拠せよ運動(オキュパイ運動)でも指導的な役割を果たしたことで知られる。2020年コロナ禍の最中に、イタリアで享年59歳で亡くなった