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そんそんの教養文庫(今日の一冊)

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一日一冊、そんそん文庫から書籍をとりあげ、その中の印象的な言葉を紹介します。哲学、社会学、文学、物理学、美学・詩学、さまざまなジャンルの本をとりあげます。
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#鶴見俊輔

鶴見俊輔がとらえた「原爆の意味」——『言い残しておくこと』を読む

鶴見俊輔(1922 - 2015)は、日本の哲学者・評論家・政治運動家・大衆文化研究者。アメリカのプラグマティズムの日本への紹介者のひとりで、都留重人、丸山眞男らとともに戦後の進歩的文化人を代表する一人である。 彼は戦後、ベ平連(ベトナムに平和を!市民連合)や原水爆禁止運動などへの協力を通して、常に市民の側から日本社会を見つめてきた。その鶴見が、原爆について語った文章が、本書『言い残しておくこと』に収められている。彼はアメリカでプラグマティズム哲学を学んできた知識人の一人で

鶴見俊輔がみた徳永進医師——『身ぶりとしての抵抗』を読む

昨日の記事につづき、鶴見俊輔をとりあげる。本書『身ぶりとしての抵抗』は、鶴見の社会行動・市民運動への参加をめぐって、そこでの考えを知りうる文章を集め、編集されたアンソロジーである。ハンセン病患者や支援活動をする人びと、60年安保やベトナム戦争反対運動、ベトナム戦争脱走兵援助の活動、隣国の朝鮮・韓国の詩人や抵抗運動家との交流を通して考えられたことなどが綴られている。「身ぶり」としての抵抗とは、社会運動における行動としての身ぶりのみならず、創作活動にあらわれる「身ぶり」も含まれる

ホワイトヘッドと金子ふみ子——鶴見俊輔がみた「経験の中の直観に立つこと」

昨日の記事に続き、鶴見俊輔をとりあげる。本書『思想をつむぐ人たち:鶴見俊輔コレクション』は、雑誌「思想の科学」の編集に10代の頃から携わっていた作家の黒川創氏の編集によるアンソロジーである。1章「自分の足で立って歩く」には、先住アメリカ人ヤヒ族の最後のひとりイシの話、独学の無政府主義者で獄中死した金子ふみ子の話、徳島に没したポルトガル人の随筆家モラエスの話などが取り上げられる。鶴見のまなざしは、マージナルな人びとに常に向けられている。 1章で取り上げられた金子ふみ子の話は、

鶴見俊輔がみた哲学言語の未来——『不定形の思想』を読む

鶴見俊輔の『不定形の思想』は文藝春秋社の単行本(1968年)を文庫化したもので、引用したものは「哲学の言語」という論考より。初出は1949年に雑誌「思想」に収録されているものである。 鶴見俊輔(つるみ しゅんすけ, 1922 - 2015)は日本の哲学者。ハーバード大学で哲学を学んだ後、リベラルな立場の批評で論壇を牽引。アメリカのプラグマティズム哲学を日本に紹介した。雑誌「思想の科学」発行の中核を担い、ベ平連(ベトナムに平和を!市民連合)など社会運動にも携わった。評論も多く

存在倫理と善悪の彼岸——合田正人氏の『吉本隆明と柄谷行人』を読む

レヴィナスやサルトルなどフランス哲学・現代思想の研究者である合田正人(1957 -)氏が、吉本隆明と柄谷行人について書いたという興味深い本『吉本隆明と柄谷行人』(PHP新書, 2011年)からの引用である。吉本隆明と柄谷行人は戦後思想界を代表する二人であるが、二人は互いに批判しあい、相剋しあいながらも、彼らの「発想力、構築力、破壊力、問題構成力、持続的展望力」はいずれも現代において強力な影響力を持っていると合田は論じる。 紹介するまでもないが、吉本隆明(1924 - 201