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そんそんの教養文庫(今日の一冊)

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一日一冊、そんそん文庫から書籍をとりあげ、その中の印象的な言葉を紹介します。哲学、社会学、文学、物理学、美学・詩学、さまざまなジャンルの本をとりあげます。
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#カフカ

遅読のススメ——平野啓一郎氏『本の読み方』より

作家・小説家の平野啓一郎氏の著書より引用。平野氏は速読ではなく遅読(スローリーディング)を勧める。その理由は、速読は知識のための読書であるが、遅読は「明日のための読書」であるという。つまり、遅読とは知識を追い求めるような読み方ではない。むしろ積極的に「誤読」するためであり、本全体の要約を知るためではなく、本の中のたった一つのフレーズであってもそれを噛みしめ、その魅力を存分に味わい尽くすための読書である。 本には、その作家の広大な言葉の世界が広がっている。「言葉というものは、

開いているのに入れない門——カフカの掌篇『法の前に』を読む

フランツ・カフカ(Franz Kafka、1883 - 1924)は、現在のチェコ出身の小説家。プラハのユダヤ人の家庭に生まれ、法律を学んだのち保険局に勤めながら作品を執筆した。どこかユーモラスな孤独感と不安の横溢する、夢の世界を想起させるような独特の小説作品を残した。その著作は数編の長編小説と多数の短編、日記および恋人などに宛てた膨大な量の手紙から成り、純粋な創作はその少なからぬ点数が未完であることで知られている。 引用したのはカフカの掌篇『法の前に』。男は「法の門」の前

些細なものに宿る普遍性——『フランツ・カフカ断片集』を読む

フランツ・カフカ(Franz Kafka, 1883-1924)は、オーストリア=ハンガリー帝国領のプラハで、ユダヤ人の商家に生れる。プラハ大学で法学を修めた後、肺結核に斃れるまで実直に勤めた労働者傷害保険協会での日々は、官僚機構の冷酷奇怪な幻像を生む土壌となる。生前発表された「変身」、死後注目を集めることになる「審判」「城」等、人間存在の不条理を主題とするシュルレアリスム風の作品群を残している。現代実存主義文学の先駆者。 モーリス・ブランショは「カフカの主要な物語は断片で

カフカをどう読むか——エーコの『開かれた作品』より

イタリアの哲学者・作家のウンベルト・エーコが1962年に著した本が『開かれた作品』である。芸術作品は基本的に曖昧なメッセージであり多様な意味内容を持つという考えから出発したエーコは、作品に対する受け手の関与の積極性を理論化し、受け手との享受関係の中で実現される「開かれた作品」のあり方を多様なジャンルに基づいて考察した。思考のモデルとなったジャンルは、詩、文学、音楽、視覚芸術、テレビ放映など多岐に渡り、カフカ以外にも、マラルメ、ジョイス、ブーレーズ、ブレヒトらの作品が参照されて