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そんそんの教養文庫(今日の一冊)

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一日一冊、そんそん文庫から書籍をとりあげ、その中の印象的な言葉を紹介します。哲学、社会学、文学、物理学、美学・詩学、さまざまなジャンルの本をとりあげます。
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#ブッダ

盗賊と長老——『仏弟子の告白(テーラガーター)』を読む

テーラガーター(パーリ語: Theragāthā)とは、パーリ語経典経蔵小部に収録された上座部仏教経の一つで、全21章での構成、すべてで1279の詩が収められている。テーラとは「長老」、ガーターとは「詩句」のことで、「長老たちの詩」という意味。本書は、訳者の中村元が「仏弟子の告白」と意訳したものである。これらの詩は、男性である修行僧たちが自分で詠じたもの、あるいは詠じたとして伝えられているものも多いが、また他の人々がこれらの修行僧について詠じたものもある。実際の作者は多勢いた

ブッダの幸福論——『スッタニパータ』より

私たちはどのように生きたらいいのか、ということを教えてくれるものが仏教であるが、では仏教は私たちにとって〈幸福〉とはどんなものと教えているのであろうか。この短い一節は、〈人生の幸福とは何か〉をまとめて述べている。いわば釈尊の幸福論である。 幸せ(magala)とは人に成功繁栄をもたらす祝福願望のことばをいう。この一連の詩句は、「大いなる幸せを説いた経」(Mahāmagala-sutta)と呼ばれ、南アジアではよく読誦されているという。 「愚者に親しまないで賢者に親しむ」と

犀の角のように独り歩む——『ブッダのことば—スッタニパータ』を読む

「犀(さい)の角」という例えは、「独り歩む修行者」「独り覚った人」の心境や生活のことを言っている。「犀の角のごとく」というのは、犀の角が一つしかないように、道を求める者は、他の人々からの介入や言葉にわずらわされることなく、ただひとりでも自分の確信にしたがって暮すようにせよ、という意味である。 インド思想の特徴の一つが内向的・内省的であるということである。これは例えばポリス的生活を理想としたギリシャ思想などとは著しい対比をなしている。ひとり沈思して自己を反省し、人間主体の深奥

怒りを制する——ブッダのことば『スッタニパータ』より

原始仏典の一つ『スッタニパータ』より、冒頭の一文を引用。スッタニパータは、スリランカに伝えられたパーリ語仏典である。 最初は「蛇の章」から始まる。人間の怒りなどの想念が「蛇」として例えられる。 そして、この怒りという毒を制することの重要さが強調される。 この後には、愛欲、妄執、驕慢を捨て去ることの重要さが説かれる。そして、想念、妄想を乗り越え、一切は虚妄であるという「空」の思想を自覚することの重要性が説かれる。(「空」という言葉自体は後年つくられたものであり、ここでは登場

執着したということは執着しないことである——『金剛般若経」を読む

ブッダの言葉である。ブッダとは「悟りを得た者」を意味するので、正確には釈迦と呼ばれた人の言葉である。「金剛般若経」は、正式名称:金剛般若波羅蜜経(こんごうはんにゃはらみつきょう、梵: Vajracchedikā-prajñāpāramitā Sūtra, ヴァジュラッチェーディカー・プラジュニャーパーラミター・スートラ)と言い、大乗仏教の般若経典の一つ。略して金剛経とも言う。3世紀以前の大乗仏教初期には既に成立していたと考えられている。他の般若経典と同じく「空」思想を説くもの