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そんそんの教養文庫(今日の一冊)

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一日一冊、そんそん文庫から書籍をとりあげ、その中の印象的な言葉を紹介します。哲学、社会学、文学、物理学、美学・詩学、さまざまなジャンルの本をとりあげます。
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#幸福

「誰も知る者がいなければ俺は父を殺すだろう」——トルストイ『光あるうち光の中を歩め』を読む

レフ・トルストイ(Lev Nikolayevich Tolstoy, 1828 - 1910)は、帝政ロシアの小説家、思想家。フョードル・ドストエフスキー、イワン・ツルゲーネフと並び、19世紀ロシア文学を代表する文豪。代表作に『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』『復活』など。文学のみならず、政治・社会にも大きな影響を与えた。非暴力主義者としても知られる。トルストイの過去記事(「小説でもなければ、詩でもなく、ましてや歴史記述でもない」——トルストイ『戦争と平和』を読む)も参照の

カーネマンの「フォーカシング・イリュージョン」から幸福の本質を考える——前野隆司氏『幸せのメカニズム』より

幸福学(ウェルビーイング)の研究者、前野隆司氏の本より引用。 経済学研究者のダニエル・カーネマンによると、「人は所得などの特定の価値を得ることが必ずしも幸福に直結しないにもかかわらず、それらを過大評価してしまう傾向がある」。それを「フォーカシング・イリュージョン(間違ったものに焦点をあてる)」と表現している。 まず、カーネマンらは、「感情的幸福」は年収七万五千ドルまでは収入に比例して増大するのに対し、七万五千ドルを超えると比例しなくなる、という研究結果を得ている。要するに、大

ソクラテスの「ダイモニア」とは何か——プラトン『ソクラテスの弁明』より

ソクラテスは、心の内にある神的なもの、ダイモニアを信じていた。そして、そのダイモニアがときどき彼に「◯◯をするな」と諫止してきたと述べている。一体この「ダイモニア」とは何であろうか。というのも、これは後にアリストテレスが幸福の概念として述べた「エウダイモニア」、つまりダイモンあるいはダイモニアを声をよく聴くことに通じているからである。 岩波文庫の『ソクラテスの弁明』の翻訳、解説をしている哲学者の久保勉(くぼ まさる, 1883−1972, 東京帝国大学卒の哲学教授)によると

現代の若者は何に幸せを感じているか——見田宗介『現代社会はどこに向かうか』を読む

見田 宗介(みた むねすけ, 1937 - 2022)は、日本の社会学者。東京大学名誉教授。学位は、社会学修士。専攻は現代社会論、比較社会学、文化社会学。瑞宝中綬章受勲。社会の存立構造論やコミューン主義による著作活動によって広く知られる。筆名に真木悠介がある。著書に『現代社会の理論』、『時間の比較社会学』など。 本書『現代社会はどこに向かうか』は2022年に亡くなった見田宗介さんの遺作とでも呼ぶべきものである。80歳を超えて、豊富な調査資料にもとづく徹底した分析と深い洞察に

最高善としての幸福(エウダイモニア)——アリストテレス『二コマコス倫理学』より

アリストテレス(前384年 - 前322年)は、古代ギリシアの哲学者である。プラトンの弟子であり、ソクラテス、プラトンとともに、しばしば西洋最大の哲学者の一人とされる。 アリストテレスによると、人間の営為にはすべて目的(善)があり、それらの目的の最上位には、それ自身が目的である「最高善」があるとした。人間にとって最高善とは、幸福(エウダイモニア)、それも卓越性(アレテー)における活動のもたらす満足のことである。幸福とは、たんに快楽を得ることだけではなく、政治を実践し、または

幸福の「ゆるやかさ」——快楽と最高善のかなたにある幸福観

哲学者の長谷川宏氏(1940 -)の書籍『幸福とは何か』より引用。長谷川宏氏は、1968年に東京大学文学部哲学科博士過程単位取得退学。自宅で学習塾を開くかたわら、原書でヘーゲルを読む会を主宰。著書に『日本精神史』(講談社)、『高校生のための哲学入門』(ちくま新書)、『生活を哲学する』(岩波書店)などがある。 本書では、古代ギリシャ・ローマの幸福観としてソクラテス、アリストテレス、エピクロス、セネカの考え方、また西洋近代の幸福論としてヒューム、アダム・スミス、カント、ベンサム