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そんそんの教養文庫(今日の一冊)

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一日一冊、そんそん文庫から書籍をとりあげ、その中の印象的な言葉を紹介します。哲学、社会学、文学、物理学、美学・詩学、さまざまなジャンルの本をとりあげます。
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#対話

言語ゲームを異にする他者との対話(あるいはポリフォニー)——柄谷行人『探究Ⅰ』を読む

柄谷行人は、1969年、夏目漱石を主題とした漱石論で文学賞を受賞したところから文芸批評家としてのキャリアをスタートさせ、1970年代には価値形態論を中心としたマルクス『資本論』の読み直し・再解釈をおこなっていく。それはマルクス・レーニン主義の視点からでないマルクスの再発見であり、新たな連帯・コミュニケーションの形を見つけ出すという目論見に基づくものであった。1980年代に入り、「構造主義」「ポスト構造主義」の理論的再吟味とマルクス『資本論』の価値形態論の再吟味を同時に行う仕事

ロジャーズの「受容」とブーバーの「確認」——『ブーバー ロジャーズ 対話』を読む

本書は、1957年にミシガン大学で行われたブーバー記念討論会での哲学者マルティン・ブーバーと心理学者カール・ロジャーズの対話の記録である。ブーバー79歳、ロジャーズ55歳のときである。 マルティン・ブーバー(Martin Buber, 1878 - 1965)は、オーストリア出身のユダヤ系宗教哲学者、社会学者。フランクフルト大学で教職に就く。1933年ナチス政権下、フランクフルト大学の教授職を辞す。1938年パレスチナに移住。ヘブライ大学教授に就任。彼の「我―汝」の思想は哲

小説における異なる言語の対話的共存——バフチンの『小説の言葉』を読む

ミハイル・ミハイロビッチ・バフチン(Mikhail Mikhailovich Bakhtin,1895 - 1975)は、ロシアの哲学者、思想家、文芸批評家、記号論者。対話理論・ポリフォニー論の創始者。オリョールに生まれ、ノヴォロシースク大学から転学、ペテルブルク(ペトログラード)大学を1918年に卒業。 ロシア革命後の混乱の中、匿名の学者として活動。スターリン時代に逮捕され流刑に処された後、モルドヴァの大学教師として半生を過ごした。バフチンの著作は多岐にわたるが、文芸批評、

対話で得られる自由と責任——梶谷真司さんの『考えるとはどういうことか』を読む

梶谷真司さんは1966年生まれの哲学者。京都大学博士(人間・環境学)。現在、東京大学大学院総合文化研究科教授。著書に『シュミッツ現象学の根本問題』(京都大学学術出版会)などがある。「哲学対話」を通して、子どもたちや地域の人びとに考えることを通した哲学を広めている。 本書は、世界的に実践されている「哲学対話」の考え方や手法をわかりやすく解説した一冊である。それとともに、「哲学する」とは本質的どういうことなのか、私たちは考えることを通して何を手に入れることができるのかといった、

バフチンのポリフォニーと「間テクスト性」——クリステヴァの『記号の解体学—セメイオチケ』を読む

ジュリア・クリステヴァ(1941 - )は、ブルガリア出身のフランスの文学理論家で、著述家、哲学者、精神分析家。ユダヤ系の家庭に生まれた。1973年からパリ第7大学の教授を務め、現在は名誉教授。彼女の言語学や言語、間テクスト性に関する著作は、ポスト構造主義的な議論をその特徴としている。彼女は、取り分けフロイトやラカンの精神分析、ロシア・フォルマリズム(彼女はその中で仲介者的な役割を演じていて、それによりミハイル・バフチンのフランスの知的シーンへの紹介者となった)やヘーゲル主義