見出し画像

賃上げ促進税制

ご存知の方も多いと思いますが、「賃上げ促進税制」について簡単に説明させていただきます。
まず背景として、デフレ脱却を名目に日銀が大規模な金融緩和と超低金利政策を実行した影響で円安が進行しました。
資源自給率に乏しい日本では海外からの輸入に依存せざるを得ず、穀物や食肉類、建築資材、半導体や電子部品、鉄・銅をはじめレアメタルなどの鉱物、石油製品、ありとあらゆる原材料が高騰しました。
これらは商品小売価格に転嫁され、電気・ガス・水道、ガソリン代などの生活インフラにも影響を及ぼし、消費者物価指数(CPI)も高騰しました。
この物価高に対し、国内企業で働く多くのサラリーマンの賃金上昇率が追い付いておらず、一般消費者にとっては悪いインフレ(スタグフレーション)が進んでいるというのが現状です。

そのため、政府は物価高対策として一定率以上の賃上げを実施した国内企業に対しては減税します!という制度を実施しました。
はじめは「所得拡大税制」という制度でしたが、令和4年度に給与以外に従業員の教育訓練費も控除対象に加え適用要件も緩和された「賃上げ促進税制」がスタートしました。
なお、令和6年度税制改正により「賃上げ促進税制」に更なる上乗せ措置が講じられましたので、次回はその内容についてご紹介します。

従業員を雇われている中小企業および個人事業主のみなさん。
労組は今年の春闘でも賃上げ率5%を掲げ、世間は賃上げムード一色。
従業員の士気を上げるためにも給与を上げたい気持ちはあるけれど、景気の先行き不透明な中、安易に賃上げして良いものかお悩みかとお察しします。
税理士事務所の担当職員は「賃上げ促進税制」の税額控除という制度面のメリットだけを強調し賃上げを提唱するでしょう。
もちろん賃上げは労働市場において必然的な流れです。
ただ、よく考えて下さい。
彼らはあなたと同じ経営者視点では物事を考えておりません。
本来、賃上げの前にまず検討しなければならない大切なことがあります。
それは、値上げです。
賃金上昇分を商品やサービスに価格転嫁できないと、営業利益が減りキャッシュフローも圧迫されるからです。(下図参照)

商品価格を100→120に値上げしないと売上原価と人件費の上昇分が賄えない!

人件費が上がれば社会保険料も上がりますし、円安が続けばその他販管費の上昇も避けられません。
もはや値上げは経営者にとって喫緊の課題といえるでしょう。

自社商品やサービスに値上げの余地はあるか
他社も同様に追随するのか
急速な値上げによって顧客離れが進まないか

様々な懸念があるでしょう。
800円で提供しているラーメンが1000円に値上がりしたら消費者は増えるでしょうか?

既存商品の値上げが難しいのであれば、新商品の開発や利益率の良い商品でカバーすることを視野に入れるしかありません。
スナック菓子のように価格据え置きで容量を減らすステルス値上げなどは苦肉の策といえるでしょう。

賃金上昇がエンドユーザーの消費購買意欲を刺激し、高価格帯商品が売れる好循環がすぐに出現すればいいのですが、効果が数字に表れるまでタイムラグが生じます。それまでの資金繰りも考慮すべきと考えます。

長くデフレ経済に浸かってきた日本ではインフレ耐性が乏しく戸惑うかもしれませんが、根本的な解決策は他社と差別化された付加価値のある商品やサービスを提供し、上昇するコストを商品価格に反映させていく価格競争力(ブランド力)を持つことに他なりません。
意図的に形成されたバブルはいずれ終焉します。
ただ、短中期的にはコストプッシュ型インフレと値上げというテーマに向き合う必要があるのではないでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?