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小説「あの時を今」13(完)

リハビリも順調に進み、日常生活に支障が無い程度には回復した。どこかに遊びに行くことや、運動が出来る様になるにはもう少し時間がかかるが、明日には退院出来る。多くは望まない、久々に家に帰れるだけで今は十分幸せだ。仕事への復帰も、まだ先になるだろう。しばらくは、自宅療養が続く。元気になったら、何をしようか。家族と旅行したり、アキラたちとハンドボールをしたり、その他は、今のところ思いつかないが、元気になれば自然とやりたいことが見つかるだろう。



トモノリにでも会いに行ってみようか。昔のような関係に戻れたら良いが、それをあちら側が望んでいるとは限らない。そのことを確かめるには、実際にトモノリに会うしかないが、会ってくれるかどうかを確認するのにも勇気がいる。今のところは、私の一方的な思いでしかなく、トモノリの思いはわからない。喧嘩の理由は忘れたが、喧嘩をした以上は私にも非があったということ。傷つくことを恐れて一歩踏み出せないのではなく、再び傷つけてしまうことを恐れているのだ。過去をやり直すことは出来ないが、過去を確かめることは出来る。しかし、過去を確かめるために今を削る必要があるのならば、それが賢い選択かどうかを考え直す必要がある。私は今、十分に幸せだ。今ある何かを犠牲にしてまで、更なる幸せを求めるほどの欲深さは、トラックに轢かれた時に失われたのかもしれない。いや、元から持ち合わせていなかったか。



午前中に退院の手続きを済ませ、午後からは家で過ごしている。妻と息子と過ごすゆったりとした時間に幸せを感じ、いろいろとどうでもよくなってきた。

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