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今日のカレーめっちゃ辛かったけど・・#一駅ぶんのおどろき

私の、すべらない+αな話である。

7年前。私が某有名カレーチェーンでお昼だけパートをしていたときのこと。

以前にも見たことのある70歳ぐらいのおじいさんがテーブル席に座った。私が注文をとりに行くと、メニューも見ないで『ロースかつカレー9辛ちょーだい』と言った。

厨房にオーダーを通し、間もなく席に言われたとおりのカレーを運んだ。

食事が終わった様子のおじいさんの隣のテーブルの片づけをしていると、おじいさんが私に『今日の、ものすごい辛かったわ~。前のよりめっちゃ辛かったわ~。これで ゅー辛か?』

ちょ、えっ?今、なんてった??きゅー辛、ちゅー辛、中辛?!!!

『前も中辛やったけどな、なんか今日のは、あ~めちゃくちゃ辛かったわ~』

おじいさんは汗ばんだ顔を紙ナプキンでおさえながら、首をかしげて水をがぶがぶ飲んでいる。

やばい。。どうしよう、、9辛とはつまり激辛だ。激辛好きでもなんでもない普通の老人に激辛カレーを食べさせてしまった。。

間違えたことを謝罪すべきだ、、でも咄嗟に返金レベルですまない可能性をはらんでいるような気がして怖くなった。同時にそのままお帰りいただくこともできるか、というずるい私もいた。

1秒立ち尽くした私は、平静を装い厨房へ小走りし、同僚に相談した。

『まじでーーー!!!笑』同僚は、笑い50、やばい50状態。

結局、バイトリーダーに、正直に話して謝罪し、お詫びにアイスコーヒーをサービスするよう指示された。私は返金を提案したかったが、それも言い出せなかった。

まだ水を飲んでいるおじいさんのところに行き、恐る恐る事情を話した。『実はうちの店は辛さに1~10がありまして”中辛”が”9辛”に聞こえてしまって、、、9辛って、、まあまあ、いや、かなり辛いんです。。本当に申し訳ありません。もしよろしければアイスコーヒーを。。。』

どうなる、どうなる、、、

『やっぱそうか?これ中辛ちゃうよな、激辛やんな?ははは!辛いと思ってん!えーねんえーねん!そんな、謝ってほしいわけちゃうよ。コーヒーもええよ。そんなん欲しくて言ったんちゃうよ。ははは、中辛ちゃうやんなー!あーほんまに辛かったわーーー!!わはは!!』

おじいさん、、、、神。。。私は涙をこらえて少し笑って、何度も頭を下げた。

夫の転勤で1年半で辞めたカレー屋さんのパートの日々が、私の中でいい経験だったと笑顔で言える大きな理由の一つがこの『おじいさん9辛事件』。

あの時もし、『9辛だと?俺が腹こわして入院したらどうする?70歳だぞ、死なないって言いきれるか?お前責任とれるか?』なんて、まあ極端だが、このご時世、無いとも言い切れない。恐ろしい。そうなっていたら、私はカレーを嫌いになっていただろう。

おじいさんは忘れているよね。あの時は、ありがとうございました。

どってことない出来事が、なんでもない言葉が、誰かの記憶にしっかり残る。大げさかな、人生を変えないとも限らない。

そんなことをいちいち意識しながら生活なんてしていられないけれど、人を不安や不幸にさせるかもしれないことを言いそうになったら、中辛のおじいさんの笑顔を思い出そう。



#一駅ぶんのおどろき

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