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戦争と薬物

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疲労、飢餓、恐怖、睡眠不足、これらが戦争のもっとも基本的な要素である。薬物はこれらの問題を中和する手段である。個人の戦闘行動も、集団の戦闘行動も、すべてその当時の文化規範や道徳規…
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#ペルビチン

爆撃機のパイロットは眠くなると乳白色の錠剤を噛み始めた

1940年、イギリスによって撃墜されるドイツ機の数が増えるにつれて、ドイツ空軍はロンドンへの空爆を夜間に行なうようになった。イギリスはこれを「ブリッツ」(稲妻)と呼んだ。 ドイツ空軍の出撃は夜の10時から11時に行なわれる。3~4時間かけて爆撃機はロンドン上空に到着した。眠気を催すと、パイロットたちは「ゲーリング錠」と呼んでいた「ペルビチン」(メタンフェタミン=覚醒剤)の錠剤を噛んだ。 軍服の膝のポケットには小さなハンカチがあり、そこに乳白色の錠剤が数個貼り付けてあった。

覚醒剤が支えた電撃戦

ドイツ軍が1939年9月に行なったポーランド侵攻は、戦争における速度の重要性を証明する戦いであった。この侵攻は、工業化された戦争の新しい形態であって、電撃戦と呼ばれた 。電撃戦は速度と奇襲性を重視し、パンツァー師団(第4装甲師団)やシュトゥーカ爆撃機などのドイツが誇る技術力を発揮する機械化された攻撃、そして前例のない速さで行われる進撃で敵の意表をつくものであった。 しかし、電撃作戦の唯一の弱点は、兵士が機械ではなく人間であったことだった。つまり兵士は、定期的に休息と睡眠を必