365日

現在、書き途中の小説ですが、創作意欲を高めるために投稿します。

マイペースに書いてますが、完成目指して頑張ります〜

ストーリー

高校2年生の天野百合は、交通事故で亡くなった親友の水橋陽子のことを忘れられず、後悔と悲しみの日々を過ごしてきた。

事故からちょうど一年経った日、いつものように学校に行くと、そこに現れたのは死んだはずの陽子だった。

時間が一年前に戻り、死んだはずの大切な人が戻ってきたー

人生や人間関係は思ったように上手くいかない。だけど、一生懸命、後悔しないように生きていきたい。

今を大切に生きること、友情と恋、夢や希望をテーマに描く等身大の物語。


第1章 天泣の雨

ザー、ザザーと雨の音が聞こえる。今年の春は、桜が例年よりも早く咲き、春の嵐によって呆気なく散ってしまった。3月に戻ったかのように、肌寒い日が今日まで続いている。

重い頭を抱えながら起き上がり、デジタル時計を見ると、時刻は7時。今日は4月27日。

(もう、1年経つんだ…)
ぼんやりとしていた頭が、冴え冴えとしてきた。
そういえば、あの日も頭が鈍く痛んで、雨が強く降っていた。一年前のことなのに、昨日のことのように鮮明に覚えている。鼻の奥をくすぐる、雨に濡れた土と草の匂い。傘に当たるバチバチと当たる殴りつけるような雨の音。遠くの方から鳴り響いて、近づいてくるサイレンの音と赤い点滅。横断歩道に広がって、滲んでいく赤い海。群がる野次馬と悲鳴。


頭から離れない、あの雨の日の記憶に、ずっと悩まされてきた。雨が降る度に、あの日を思い出してしまう。吐き気がして、学校を休むことも度々あった。

(今日は絶対、学校に行く。陽子のために。)
気力を振り絞って、布団から抜け出した。

身支度をして、いつもより早く家を出た。
雨の日は、バス停までの道を、遠回りして歩く。いつも歩く道より車の交通量が少なく、安全な道だから。
雨は大粒で、傘を差していても、足元に雨の滴が跳ねる。

(この雨は、陽子が天から降らせているのかな。それなら許してあげようか)

傘を畳んで、バスに乗りこんだ。座席に座って、雨の流れ落ちる窓の外を眺める。いつもと変わらない風景。いつもと変わらず心の奥に沈殿して離れない不安。背中に背負っていた鞄を膝に置いて、抱え込む。雨に濡れて、いつもより重くのしかるようだった。

学校に着くと、まだ人影は少なかった。雨の日は運動部の朝練がないためだろう。グラウンドは、昨夜からの雨で、所々ぬかるみ、大きな水溜りがいくつもできている。

昇降口に入ると、人影が見えた。まだ始業時間まで1時間も早いのに。訝しげに下駄箱に歩み寄り、その人影が誰のものであるかに気付いて、はっとした。

「陽子!?」

「百合、おはよう!どうした?」

あまりに気が動転して、声が出なかった。
死んだはずの親友が、今、目の前にいる。
百合は陽子に駆け寄り、抱きついた。
「ちょっと〜、百合ってば。どうしたの?」

「夢、じゃないよね?」
百合は、陽子の顔をじっと見つめて、祈るような思いで、確かめるように聞いた。

「何言ってるの?まだ眠ってるの?早く起きてよ〜」
陽子は、太陽のような弾ける笑顔を向けた。

1年前の4月27日。
陽子は、不慮の事故に遭って、命を落とした。登校中に、雨でスリップした車に跳ねらたのだ。
あの日から1年経ったはずなのに。
私は、夢を見ていたのだろうか。親友を失った悲しみ。1年間鬱々として過ごした日々は、紛れもない現実だった。

陽子が今言ったように、まだ夢の中にいるのかもしれない。

「さ、寒いから、早く教室に行こう」
陽子に急かされて、百合は靴を脱いだ。自分の下駄箱に向かう。
「陽子、そっちは3年生じゃない。いつのまに飛び級したの〜」
「えっ」
陽子に手招きされるままに、2年生の下駄箱に向かう。
「やっぱり、今日の百合は変だよ。熱でもあるんじゃない」

百合は、目の前で起こっていることに、戸惑った。
去年使っていた、2年生の学年カラーの緑色の上履き。自分の名前が書いてある。
(3年生になってから、この上履きは捨てて、黄色の上履きに替えたはずなのに)

二人は、上履きに履き替え、階段を上がる。百合は、半歩遅れて、陽子の後ろにつき従う。陽子は、躊躇うことなく、2年生の教室に向かう。陽子は2年A組の教室の前まで来て、扉を開ける。
「今日、部活終わったら、また連絡するね!」
陽子が手を振って、教室に入っていく。

百合は隣のB組に向かう。教室の後ろに張り出されている、座席表を確認する。窓際で、後ろから2番目。隣は、テニス部の佐々木浩介。前の席には同じ吹奏楽部の山根香織。ちょうど1年前と同じ座席だ。

百合は自分の席に座り、鞄を開け、中から教科書を取り出す。2年生で使っていた教材だ。ノートを開くと、昨日までの板書が写してある。『2年B組 1学期の時間割』と書かれたプリントも出てきた。
急いでスマホを取り出す。カレンダーのアプリを開いて、今日の表示を見る。2020年4月27日。時刻は8時を少し過ぎたところ。この時間、私は陽子が救急車に乗って運ばれた病院に向かっていたはず。

一年前にタイムスリップしたということか。ただ、違うのは、死んだはずの陽子が生きているという事実。


(一体どうなってるの?!)

体から一気に力が抜けて、机に突っ伏してしまった。

どれくらい、頭を抱えていただろうか。声をかけられて、百合はパッと顔を上げた。香織だった。
「おはよう、百合。大丈夫?顔色悪いよ」
「ううん、大丈夫」
「そう?いつもより早いね。自主練でもしてたの?」
「目が早く覚めちゃって。今日って、もしかして、国語の小テストあるかな?」

「そういえば!小テストやるって言ってたね。ヤバイ、勉強するの忘れてた。ありがとう!今からでも間に合うかな」

1年前の記憶を辿る。国語の時間に小テストをやったはずだ。百合は、その時間、病院に駆けつけていたため、後日改めて小テストを受けたことを覚えている。

百合の憶測は当たった。1限目に授業が始まるや否や、小テストが始まった。

「百合、一緒に行こう」
香織に声をかけられて、立ち上がり、一緒に部室に向かった。楽器倉庫から、フルートを取り出す。
カバンから楽譜を取り出す。その曲は、6月の地区コンテストに向けて練習している曲だった。
(去年は地区予選で銀賞だったな)

1年前の記憶。確かに覚えている。私はタイムスリップをしたのか。
それとも、陽子が事故で死んだ日からの1年が、夢だったのか。


夢であって欲しい。これが現実であって欲しい。


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