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これでさようなら?ベルモンド 

2020年から3回続いたジャン=ポール・ベルモンド傑作選、4回目の今度がグランドフィナーレ。
ベルモンドは3年前に死んじゃったし、ゴダール監督作品以外で今後主演作を映画館で観る機会はもうないかも。

傑作選最終回の目玉は『おかしなおかしな大冒険』(1974)、『ライオンと呼ばれた男』(1988)、『レ・ミゼラブル』(1995)の3作。

『ライオンと呼ばれた男』
ベルモンドはこれでセザール賞主演男優賞。
クロード・ルルーシュ監督。
フランシス・レイの音楽がいい
『レ・ミゼラブル』
ゴールデングローブ賞外国語映画賞受賞。
原作をアレンジして、20世紀が舞台。
ベルモンドは3役を演じている。


上の2つは日本で公開されてすぐ観に行ったが、『おかしなおかしな大冒険』は日本公開1974年で私は観ていない。その後50年上映されず、(テレビの洋画劇場では放送されたらしいが)VHSにもDVDにもなっておらず、今回リマスター版で登場。
本傑作選でもメインビジュアルとして使われているけれど…

傑作選4回目ポスターのメインは
『おかしなおかしな大冒険』
他に前回傑作選6作品のアンコール上映も

『おかしなおかしな大冒険』、相変わらずあんまり考えずに適当につけました的な邦題。前の年に同じヒロイン、ジャクリーン・ビセットが出たアメリカ映画『おかしなおかしな大泥棒』からのつながりで?だとしたら安易〜。
一方、フランス版原題は"Le Magnifique"。直球シンプル。

ベルモンドは「ベベル」の愛称の他に、この映画に因んで「ル・マニフィック」と呼ばれることもあったらしい。3年前のベルモンド死去の際、マクロン大統領も「彼は国の宝。永遠のル・マニフィックでい続けるだろう」と追悼していたので、そんなにベルモンドの代名詞的作品なのだったらぜひ一度観なくては!と思っていたのだが…。

監督がベルモンドのドタバタ冒険アクションをたくさん手がけたフィリップ・ド・ブロカで、スチール写真とか見てだいたい予想はついていたけれど、観た感想は「はぁ〜、やれやれ」だった。

大衆向けスパイ娯楽小説を執筆している冴えない作家フランソワ。仕事も私生活もうまくいかないことだらけだが、小説の中では世界を股にかける007ばりの無敵でモテモテの諜報部員ボブに自己を投影して思う存分暴れ回り、同じアパートに住む、ちょっと気になる留学生タチアナを恋人クリスティーヌに仕立てて妄想炸裂。

現実世界のフランソワとタチアナ。
しがない作家と社会心理学専攻の留学生
小説の冒険世界では華麗なスパイカップル

現実世界で気に食わない人は小説の中でどんどん悪役にして、非情に痛めつけては溜飲を下げるというのもどうかと思うけれど、とにかく全てが破茶滅茶で過剰。
『大盗賊』、『リオの男』、『カトマンズの男』ときて本作、そして『ベルモンドの怪盗二十面相』とフィリップ・ド・ブロカ流目まぐるしいテンポにあり得ないマンガみたいな展開。流血プシューどぼどぼ、頭ぱっくり脳みそしゅぽーん。
ベルモンドが心底楽しんで生き生きと演じているのは確かなのだけれど、現代ではそれダメでしょうという場面や台詞も。

個人的には『モラン神父』や『雨のしのび逢い』、『勝負をつけろ』、『ダンケルク』などの抑えた演技のベルモンドも好きなので、なんというか「殿方のファンタジーをベルモンドが全て叶えてみせました」的なアクションとギャグとお色気てんこ盛りはしつこすぎて苦手。
前回の傑作選3の時も『ベルモンドの怪盗二十面相』の感想で書いたけれど、こういうベルモンドが大好きなファンももちろんたくさんいるのだろう。

あと、お国訛りのフランス語を話すゴージャスな留学生と恋に落ちるっていう設定、ド・ブロカ監督のお気に入りなのだろうか?『カトマンズの男』のヒロイン、ウルスラ・アンドレスは留学生じゃないけれどやはり文化人類学的な調査をしていた。(その研究費と生活費捻出のために香港のクラブでストリップのアルバイトをしているという、ほんとにどこまでも殿方に都合のいい設定)。調査研究の時はツインテールに大きな眼鏡、バイトの時は網タイツ。
やれやれ。
そういえばゴダール監督の『勝手にしやがれ』でもジーン・セバーグは留学生で、英語訛りのフランス語。ニューヨーク・ヘラルド・トリビューンでバイトしていたな。

アンコール上映の一つ、『冬の猿』
アンリ・ヴェルヌイユ監督の秀作

若きベルモンドがジャン・ギャバンの胸を借りて好演。ベルモンドもいいけれど、これは渋いジャン・ギャバンを観る映画。
このポスター、いいなあ。

傑作選は7/25までの予定だけれど、もしかしたら延長あるかもしれないそう。
映画館でのベルモンド祭りは、これでほんとうにさようならだろう。

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