ミモザケーキは希望の色 - ドライビング・バニー
映画「ドライビング・バニー」。
(結末は書かないけれど、端々でネタバレっぽくなってしまっているかもです。)
まず、この邦題に異議あり。原題は"The Justice of Bunny King" バニー・キングの正義。このままでよかったのでは?
ラストのシーンとひっかけて、「ドライブ・マイ・カー」を意識した?でも実際には車の運転自体はそんなには出てこない。
痛快ロードムービーかなとフライヤーに騙された自分が悪いが、全然痛快じゃないどころか全編ズーン…と重かった。
でもRotten Tomatoesで100%獲得しただけのことはある、いい作品だった。
バニーがとにかく無鉄砲で無軌道で危なっかしく、あぁ〜もう、そんなんだからいつまでたっても子どもを取り戻せないんだよー!と見ていて頭を抱えたくなる人物。いや、あなたの気持ちもわかる。わかるけど、ここはちょっと大人として落ち着こうよ、と思うことたびたび。
バニー役のエシー・デイヴィス、迫真の演技。ドキュメンタリー見ているような気分になってしまった。出る作品で全然印象が違うけれど(「シャーロットのおくりもの」ではダコタ・ファニングのお母さん役だった!)この映画では、やつれてボロボロで危なっかしいやけっぱちのバニーそのもの。アクション起こす前に、踵を片足ずつ手で後ろに引っ張って大腿四頭筋ストレッチしてウォームアップする割には、行き当たりばったりの行動が多く悪事もすぐバレる。
トーニャ役のトーマシン・マッケンジーもよかった。「ジョジョ・ラビット」でも「ラストナイト・イン・ソーホー」でもそうだったけれど、ちょっとおどおど、でも強い意志を秘めている女の子の感じがうまい。本作でも、よれっとしたスウェット着てボソボソ話す不安定なティーンエイジャーのやりどころのなさがよく出ていた。この人はニュージーランド人だったのかー。
ニュージーランドについてはあまりよく知らない。人口より羊が多いとか、アーダーン首相とか、優しくのんびりとした牧歌的な国というものすごく勝手なイメージを持っていた。でも、もちろん国には国の問題があるし、ニュージーランドにも格差や貧困はありバニーのようにひとたび底辺まで落ちてしまうと、そこから抜け出すのは難しい。住宅事情も悪く、毎日がいっぱいいっぱいで明日どうなるかわからない生活。見ていて「フロリダ・プロジェクト」や「私は、ダニエル・ブレイク」、「ノマドランド」なんかを思い出してしまった。
それでもなんとか救いというか希望を感じられるのは、バニーの心にそっと寄り添おうとしてくれる人たちの存在。窓拭き仲間のマオリ(?)の男の子のお母さん、就労支援で服や靴やアクセサリーを提供してくれるボランティア団体の女性(妙にかっこいい)、家庭支援局のトリッシュ、救急救命隊員…。みんな女性だ。監督のゲイソン・サヴァットも。
仲間のお母さんが教会に持って行こうとしていた黄色いホールケーキ、バースデーケーキとしてバニーがもらってしまうのだが、このケーキがとてもおいしそうだった。ミモザケーキのように見えたけれど、実際にはもっとアイシングがこってりした感じだろうか。あたふたバタバタと駆け回る間も、バニーはこのケーキはしっかりと掴んで離さなかった。
羊は出てこないし普通に道は渋滞しているし、街並みだけだとニュージーランドかどこかわからないが、「北向きだから採光がいい」というセリフは南半球。
オープニングとエンディングの曲はWhat's up。4 Non Blondesが歌うオリジナルは懐かしく、エンディングのWilla Amaiのバージョンはしっとりと切なく、心に沁み入った。
タイトル画像のカマキリは、ガン飛ばして窓拭きブラシを怒りに任せて振り上げるバニーのイメージ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?