見出し画像

怖い映画三連発 

還暦も過ぎると、もう残りの人生で敢えて辛いとか怖い思いはできるだけしたくない。
映画も同様。バッドエンドや観終えて暗い気分になるものは避けたい。
そのくせ、たまーに怖いもの見たさでホラーやスリラーを観ては、気持ち悪くなって後悔したりしている。4、5年前に観た「ゲット・アウト」はしばらくトラウマになり、一昨年の「ミッドサマー」も、観終わって胃がムカムカ。
しばらく怖いのは避けていたのだが…。

先月末から3つ続けて観てしまった。
9月に「LAMB/ラム」も観たのだが、これはホラー映画という認識はなかったのでカウントしない。

結論から言うと、3本とも胸ムカムカにもトラウマにもならなかった。

*ちょっとネタバレしている部分もあるので、これから観に行かれる方は、以下読まない方がいいです。

一つ目、「ザ・メニュー」。

怖いシェフを演じたのは、ハリー・ポッターのヴォルデモード役、レイフ・ファインズ。
主人公のマーゴットはラストナイト・イン・ソーホーで、お人形のように妖艶な女の子だったアニャ・テイラー=ジョイ。
どちらもずっと暗〜い画面に出ていたせいか、本作でも登場した時から暗いイメージを引きずっているように見えた。

怖いの来るぞ来るぞという心構えだったので、出てくるいちいちが「これ後で絶対ヤバいやつ!」という気持ちで見てしまう。燻製小屋とか冷凍粉砕機パコジェットとかレストランの重たそうな回転式の一枚扉とか突然床に敷き出したシートとか、なぜか隅でずっと飲んだくれてるシェフのお母さんとか。結局最後まで何でもなかったものもあり、ビクビクさせる思わせぶりな仕掛けにまんまと引っ掛かってしまった。
レストランのキャプテン、室井滋っぽいエルザの、感情を殺した言動も最初から妙に怖い。

でも、笑える場面もあったりして怖いだけではなかった。
登場人物たちの造形も、あるあるなんだけどそこに乗っかって見ていられる安心感というか。

料理は一つの文化だし、良質な食材を選び優れた技術で心を込めて供する料理人はすごいなと思う。
でも、自分はグルメでもフーディでもなく気取ったレストランは苦手なので、料理はおいしければそれでいい。
お皿の縁にしゃらしゃらソースを添えるのとかも、手っ取り早くおしゃれに演出できるハッタリっぽくてそんなことしないでくれと思う。
料理が目の前に運ばれてきて、さあ食べようとしたところで、そこから食材や調理法について延々と説明されると「食べてヨシ」待ちの犬になった気分になる。
レストランでのモヤモヤを抱えていた視点から観ると、溜飲を下げることもできてむしろ楽しい映画だった。

チョコレートのトルコ帽とマシュマロケープでデザートはスモアって言われたら、ああ、もう予想通りの展開。
お持ち帰りを食べながら、マーゴットがしゃらくさいメニューをナプキンがわりにして口を拭うシーンがとてもスッキリ。
スリップドレスにライダースジャケットとショートブーツのファッションも、マーゴットの潔さが表れていてよかった。
観終わってから無性に食べたくなると言われている、ある食べ物。調理過程は確かにおいしそうではあったけれど、私は全く関係ない餃子を食べて帰った。

二つ目、「ドント・ウォーリー・ダーリン」。

映画館で予告を見た時、あれ?これって「ステップフォードワイフ」のリメイク?と思った。実際見始めても、似ているところがたくさん。
50〜60's風俗、いつもきれいにしている奥さま方のダンスレッスン、快適で完璧な生活を保証してくれる旦那様への献身…。
ドバイのパームジュメイラみたいな、砂漠の中に人工的に造られたディストピア。
これみよがしな怖いシーンはあまりないけれど、いや〜な気分にさせられた。

女性への抑圧みたいに描かれているけれど、むしろ男性側の問題の方が大きいと感じた。
一番いやだったのは、フローレンス・ピュー演じる主人公アリスの夫ジャック(ハリー・スタイルズ)が、昇進を祝って無理やり踊らされる場面。オールドボーイズクラブの闇を見せつけられているようで。
女性は(かなりの勇気を持って)Noを唱えたり覚醒できたりしても、男性はプライドや同調圧力が大きすぎて、思い込まされた価値観の転換もできず、こんなのおかしいと思うことも許されないまま、沼に飲み込まれるしかないのか。

フローレンス・ピュー、ミッドサマーでも倒れる寸前まで奮闘したメイポールダンスがよかったけれど、今作でも裸足のカーチェイスと全力疾走。
心拍数上がりまくりの演技が合うなー。

アリスが窓ガラスやバスタブを磨きながら口ずさんでいたWith you all the time、やけに耳に残るメロディーで、帰宅後自分も知らずに夕飯の料理中ハミングしていた。あぶない。

三つ目、「殺しを呼ぶ卵」。


このポスターに騙された。
気狂いピエロのホラーB級版みたいなのを期待していたけれど、ただのB級映画だった。

日本での公開は1968年。
当時はあまりに残酷ということでカットされていたシーンを含む、最長版としてのリバイバル上映。
「アヴァンギャルドな映像表現で倫理観を問う衝撃の猟奇サスペンス」の触れ込みだったけど。

公開当時のポスター

あんまりなタイトルだと思ったけれど、イタリア語の原題も死を産んだ卵。どっちにせよB級感は漂っている。
夫は開始早々隣りで寝始めた。

セリフは吹き替え(本人の音声別撮りのアフレコ?)で不自然。これ、どうかしてるわという場面がたくさん。養鶏場の中なのに、ジーナ・ロロブリジーダは真っ白なパンタロンスーツ、エヴァ・オーリンはミニスカート、二人ともばっちりメイクでニワトリ掴んでご機嫌でポーズをとっている。養鶏場の中のちゃちな実験室、ヘンテコなパーティー、カラフルな画面にイライラさせる前衛音楽。一方鶏舎の中はニワトリの育ちを促す軽快なポップミュージックが流れている。

映画館のディスプレイに「養鶏の友」。
映画史上唯一の養鶏サスペンスだそう


今年の6月に亡くなった主演のジャン=ルイ・トランティニャン、「男と女」では渋いステキな役だったけど、本作では倒錯気味のおじさん。この人は「パリは燃えているか」でも、出てくるフランス人がみんないい人だった中で唯一嫌な人物を演じていたので、特に違和感はなかった。

イタリアの60'sの雰囲気はとてもよかった。養鶏組合の国際会合なんてもの、ほんとに大阪であったのかな?あのポスター欲しい。
インテリアやファッション、前衛以外の音楽は楽しかった。

ラストはどんでん返し。一番まともなのは…そうだったかー、と納得。

ところで、映画が始まる前に、夫がこんなのあるよと見せてくれたDoesTheDogDie.com Crowdsourced emotional spoilers for movies, tv, books and moreというサイト、この中には神経を逆撫でしたり、見ていて辛くなったり気分が悪くなる色々な場面と、それが含まれる映画やドラマや本などのタイトルが視聴者や読者のレビューに基づいてリストになっている。
暴力、殺人、拷問、児童虐待、幽霊や裸、虫が出てくるなどなど、とにかく多岐にわたっていて、こういうが場面苦手と思ったら、そういうのが出てくる作品を事前に回避することもできる。
えー、そんなのも?という項目もあるし、自分の属性の項目が立っていてそうなのかーとも思うが、何を不快と感じるかは人それぞれ。
その事で不当に糾弾されない限りは、感じ方の自由はある。
そのカテゴリーの中に、サイト名と同じ「犬が死ぬ」というのがあって、検索すると「LAMB/ラム」もリストにあった。あの映画で私が一番辛かったのはそこだったので、知っていたら観なかったかもなあ。
「殺しを呼ぶ卵」を原題で検索したが、リストには入っていなかった。
が、それなのに…。

以上3作の中で、私が一番怖いと思ったのは「ドント・ウォーリー・ダーリン」でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?