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できることからはじめよう。転職会計士のはじめのIPO(vol.2)

前回の投稿は監査業務に携わったことがある方には馴染み深い内容だったと思いますが、今回はもう少し事業会社の実務に寄った内容をご紹介させていただきます。
時間軸としては同時並行的に進める内容も多いですが、「複数社のクライアント × 複数の勘定科目の監査」をしていた会計士の方は、プロジェクトやタスクの管理、優先順位付けも経験の中で鍛えられていたと感じています。
今回の投稿も監査を行う中で触れてはいる内容です。裏側で事業会社がどの様な内容を行っているかというご理解の一助になりましたら幸いです。

1年目の半年以降(2014年12月~2015年5月)


労務管理ルールの作成

会計士として監査をしているとあまり労働基準法に触れることは多くないかと思います。
しかし、一般事業会社とりわけベンチャー企業だと労務管理の整備はIPOに向かう中で越えなければならない高いハードルだと感じています。
課題になるのはやはり一番は「未払い残業代」だと感じています。
ルール作りと整備
⇒そもそも未払い残業代が発生しないようにするためのルールをどの様に設計するか
運用
⇒ルールを作るだけではまず守られないのでどの様に会社全体で管理するか
リスク分析と対応
⇒過去に発生している可能性がある未払い残業代をどの様に処するか
というのは、転職したらすぐに着手した方が良いと思います。

さらにIPOを目指す場合には36協定違反が何回あるのかもⅡの部で開示したり、審査項目になります。
未払い残業代がなければOKという訳ではなく、36協定違反が恒久的にある状態(労働基準法違反になるので法律違反がある状態)を解消する必要があるので、労働時間の管理は徹底する必要があると思います。

なお、個人的には「ルールや仕組みは改善・変化しようとする旗振り役が一番声を大にしなければいけない」と思っています。
(私は転職してすぐですがマネージャー陣に「あなたの部門の社員が勤務時間守らない(=マネージャーが管理できない)のが原因でIPOできなかったら責任取れますか?」くらいの強いトーンで言いました。もちろん強いトーンだけではダメなのでバランス見ながらコミュニケーションしています)

取締役会や経営会議等の会議運営

会計士としての監査だと「議事録レビュー」「会議の添付資料の確認」は必ず行うと思いますが、議題にすべき事項が抜け漏れていないかということや議事運営の中身までは確認しないことが多いのではないでしょうか。
監査上の手続きはもちろんそれで良いと思うのですが、転職して会議を運営する立場になると、本来決議すべき内容が抜けないようにすることやファシリテートも求められます。
特に取締役会は会社法上の組織なので決議事項や報告事項は会社法を見直しながら進める必要があります。
(会計士試験以降、監査の実務で会社法の条文見ることは少なく、記憶を呼び起こすのが結構大変でした)
そのため、
・会社法の条文をベースにチェックリストを作る
昨年の同時期に行った取締役会の議題を見返す
という作業をしながら抜け漏れなく適切に会議を運営できるように管理をする必要があります。
さらにIPOを目指す場合には取締役会のスケジュールは「月初10営業日前後で開催してください」というリクエストが証券会社から出ると思います。
理由としては業績予想の修正の必要性がある場合には速やかに決議できるようにするためというのが理由になりますが、それを満たすためにも月次決算の早期化が付随して必要になります。

上記の様に取締役会が議論の場ではなく、会社法上の定めに基づく決議の場、報告の場になると、徐々に経営会議で協議しなければいけない内容が増えます。
(IPO後は取締役会の実効性評価の話が再燃するので、取締役会も形式的な場ではなくなりますがここでは割愛します)
経営会議で協議することが増えると「経営会議が時間通り終わらなくなる → ファシリテーターの段取りが悪いと言われる → 事前に経営会議の根回しを行うようになる」という流れが生じるようになります。
この様な立ち回りをすると徐々に情報の集約地になり、経営会議も段取り良く進められるようになっていきます。
(とは言え、半分くらいは段取り良くは進めれらないような気がしています)

上記の様に事業会社側では思考錯誤の結果、監査で行っている「議事録レビュー」の議事録が仕上がっていると思って監査すると少し議事録の内容の見方も変わるのではないでしょうか?

関連当事者取引の解消に向けた相談

関連当事者取引の解消は個人的には非常にストレスの高い仕事だったと感じています。
オーナー企業の場合には0から立ち上げて会社を成長させていく中で、関連当事者取引のつもりはなくても関連当事者取引になってしまっているケースがあります。
これらを解消するにはオーナー個人だけでなく、関連当事者取引の相手側になっている関係者の理解も必要になります。
また、『全ていっぺんに解消するのは難しい』『解消するにも落としどころを見つける必要がある』というのが良い経験でした。
(転職した当時の私は、頭が固くビジネスマンとしてのリテラシーも低かったと振り返ります。
転職して数か月の若造に『IPOできないからこの関連当事者取引は速やかに解消してください』と言われたらそれは感情的にもなるよな…と思います。
この時、社外取締役に言われた『人間は感情の生きもの』『上げた拳の落としどころ』という話は監査法人時代は学ばなかった処世術と感じています)

さて、話を戻すと、いずれにしてもIPOを目指す場合には関連当事者取引は解消しなければいけません。
例えば、プライベートの携帯料金も社用の携帯電話も会社で払っているようなことがあれば、プライベートの携帯料金は個人で持ってもらうようにする必要があります。
ただ、転職したての場合にここまで細かいことはわからないと思います。
そのため、社内の経理担当の社員や顧問の税理士とも相談しながら、少しでも公私混同がありそうな取引があれば教えてもらうという信頼関係を構築することが重要だと感じています。

規程の作成

監査法人時代は正直、クライアント先の規程を見たことはほとんどありませんでした。
J-SOXの監査の中で業務フローやその証跡となる書類の確認は行うものの、規程まで遡るというのは時間的にも難しかったです。
私はIPO支援の際にRCM・フローチャートを作成する中で規程との整合性まで確認したことがあったので、多少規程のイメージはありましたが「規程に何が書かれているのか」「何が書かれていなければいけないのか」という所までは認識していませんでした。
主幹事証券会社から「基本規程」「組織規程」「経理規程」「総務規程」「人事労務規程」「業務管理規程」という大きなくくりの中で、約40~50の規程の作成が必要だと言われたときは驚きました。
しかし、主幹事証券会社やIPO支援の関係者からひな型を入手できますし、bizocean等で規程のテンプレを無料で取得できます。
まずはテンプレを自社の実態に合わせて修正し、現場に近い内容についてはヒアリングを行いながら、一つ一つ作成していくしか手段はないと思います。
地道ではありますが、規程にするために関連する法令等も探すと徐々にその会社の法務的な観点も養われるようになってきます。
結果としては、何かの業務上の不明点や規程でカバーできていない内容については相談が来るようになり、その判断を行う中で意思決定力も養われることになります。

予算の策定

監査法人時代は予算と実績の差異の確認を行うことはありましたが、予算を作るということはしたことがありませんでした。
ベンチャー支援を行っていた時に、年度単位でざっくりとした成長数字を作成する支援を行ったことはあれど、事業運営に必要な粒度の予算を作ったことがありませんでした。
特に、IPOに向けては、「月次単位」「当期純利益」までのPL予算が求められます。(BS・CFも資金繰りを見通す中で自然と必要になります)
私が転職した当時は、転職先では予算という概念はなく、「営業目標」が「半年単位」で設定されているだけでした。
さらに『営業目標がPL数字とズレがずれがある』『営業目標は予算として掲げるには高すぎる目標』という状態で0から作る必要がありました。
監査法人時代は、過去の数字との比較・様々なデータを使いながら分析を行っていましたが、将来の数字を策定したことはありませんでした。
さらに転職したてなので、ビジネスモデルの内容やKPIとなる数字も深くまで理解できていない状態では精度の高い予算を策定することは難しかったです。
結果として、社内予算は3か月先を見立ててみて、月次でのズレの理由を分析し、さらに3か月先を見立ててみるという繰り返しを行いました。
ただ、結果としては、やはり刻一刻と変わる事業環境の中で精度の高い予算を策定することの難しさを感じ続けたと思っております。
年度単位で言えば、期初の見立てと年度決算が近しい数字で着地したことは関与し続けた6年間の中で1回くらいだったと記憶しています。
それ以外の5回は業績予想の修正までは行かないまでも事業環境の変化とともにズレは生じたと感じています。
ただ、唯一言えるのは『精度の高い予算設計にこだわり続けることで差異がなぜ生じたのかを即座に分析』することが出来、『差異の影響が残りの期間にどの様に影響するかを見立て』ることが出来る状態にはレベルアップできたかと感じています。

まとめ

最後までご覧いただき誠にありがとうございました。
今回の投稿では、監査法人の監査経験の中で触れることはあったのだけど、監査では経験できかなったと感じたことを紹介させていただきました。
事業会社の中に入ることで「見えなかった世界が見える」ようになったとも感じている一方で、監査の経験なしに一般事業会社に最初から入ると「比較対象がない手探り状態」だったと感じています。
また、事業会社の中で新しいルールを作り、その運用の仮定で自分自身が会社の『情報のハブ』になることを実感できるのではないかと思います。
情報のハブになることで会社の全体像が把握でき、頼られることでやりがいを感じる、という「大変だけど価値提供ができて嬉しい」状態になっていたと思います。

監査と事業会社の両方を経験し、キャリアチェンジしてから実施した内容を紹介することでキャリアチェンジ後の視界が晴れてハードルが少しでも下がりましたら幸いです。
※弊社では転職あっせん事業等は一切行っておりません。

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