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『わたしの神さま』…初めて書いた小説です。


わたしはきたない仕事をしている。
わたしの街のいちばんすさんだ地区で、きたない仕事をしている。
こどものときに、父親がわたしをきたない店に売った。
父親は自分の借金が返せなくて、わたしをきたない店に売った。
学校なんて行ったことない。
母親はわたしが生まれてすぐに死んでしまった。
一冊の本を残して。
それが、聖書との出会い。
わたしは字が読めない。
でもきっとこの本にはわたしのしらないキレイなことが書かれているんだと思った。
近所の人に言われたから。「あんたの母ちゃんは優しい人だったよ」と。

きたない店に売られたとき、わたしは着の身着のままだった。
ボロまとって、手に聖書だけもって、おかみさんとこ来た。
おかみさんはわたしの聖書をみて言った。
「あんたがそんなもん読んでもなんにもならないよ。さ、きれいな服に着替えて、さっそく店にでてもらおうかね。」
その日から、地獄がはじまった。
仕事中、ちょっとでも仏頂面すると、「バイタのくせになまいきだ!」とぼこぼこに殴られた。

仕事が終わると、先輩のおねえさんたちと一緒にせまい部屋で雑魚寝して、泥のように眠った。
先輩のおねえさんの中には、字が読めるひともいた。

字が読めるおねえさんにわたしはせがんだ。
「お願い、この本を読んでくださらない?おかあさんの形見なの」
字が読めるおねえさんはわたしの聖書をみてほほ笑んだ。
「すてきな形見ね、これは神さまの本よ」
その日から、字が読めるおねえさんは、少しづつ少しづつわたしに聖書を読んで聞かせてくれた。

字の読めるおねえさんは、ある日聞いてきた。
「あなたは教会にいったことがある?」
わたしが「ない」と答えると、字の読めるおねえさんは「うちらが行ってもいじめにあうだけよ」と悲しそうにほほ笑んだ。
「でも」とおねえさんは続けた。「わたしがまだこの商売に入るまえにね、教会に通っていたの。そのころはまだ両親がいてね、しあわせだったわ。教会で聞くお話はほんとにステキだったの。そして、十字架ときれいなステンドグラスがあったわ」

その話を聞いてから、わたしの教会へのあこがれは大きくなっていった。
そんなわたしをみて、字の読めるおねえさんはふたたび言った。
「わたしたちが行ってもいじめにあうだけなのよ」
わたしは言った。「どうしてなの?神さまのまえではみんな平等じゃないの?」
おねえさんは悲しそうに言った。
「ひとびとはそう考えているふりをするけど、じっさいは違うのよ。」

でもわたしは教会へのあこがれを抑えきれず、ある日曜日、できるだけきれいなお洋服を着て、街の中心部にある教会に行ってみた。
牧師さんの話はまったく理解できなかったけど、きれいな十字架ときれいなステンドグラスはとてもステキだった。

牧師さんは、難しいお話の最後にこう言った。
「なにか悩みを抱えている人は私がいつでも相談にのってあげよう。」
そのとき、わたしははっと気がついた。
この人、字の読めるおねえさんのおきゃくさんだ!
そして、牧師さんと目があってしまった。
わたしは走って教会から逃げ出した。

うしろから、男のひとたちが追ってきた。
男のひとたちはわたしをぼこぼこに殴って、「バイタのくせにここにくるなんて身のほど知らずにもほどがあるぜ!」
「これは牧師さまのご命令だ!悪くおもうなよ!」と言った。
わたしはうすれゆく意識のなかで思った。
「ああ、でもわたし、もうくるしまなくてすむのだわ。」
そして、わたしは死んでしまったらしい。

わたしは街のかたすみに埋められた。
字の読めるおねえさんが何度か来てなみだを流していった。
そして、あの牧師さんは新聞に「痛ましい出来事」というだいめいで、
「ある売春婦が教会に懺悔に来たのに、人々は彼女を殺してしまった」といったないようの記事をかいた。
その牧師さんが自ら人々にわたしを殺すよう命令したくせに。
皮肉なことに、その記事で人気をはくした牧師さんはこの街でいちばんえらいひとになったそうだ。
字の読めるおねえさんは、お客さんのひとりにとても気に入られたらしい。そして彼女はそのお客さんと街を出てゆき、わたしのおはかに来る人はその後だれもいなかった。

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