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知っておいて損はない映画の基本5~編集~

映画は全編ワンカットで撮られていない限り、数ある撮影素材を組み立てることによって物語をつくっていく。
その過程が編集と呼ばれ、編集によっては映画の質が大きく左右されるため、多くの映画監督たちは編集権限を大切にしている。
アニエス・ヴァルダはハリウッドからの撮影の誘いがあったにもかかわらず、編集権限を与えられなかったために誘いを断ったくらいだし、黒沢清も『アカルイミライ』を撮った時、製作のアップリンクに編集だけはわがままを言わしてくれと交渉したほどである。

編集の重要さからさらにドキュメンタリーとフィクションの差異や構成主義にまで話を拡大させることはできるが、それは次回にして今回は編集によって構成される基本的な映像の種類を紹介しよう。
下記の8種類の映像スタイルはクリスチャン・メッツによる分類であるが、正直映画の基本と言えるほど簡単な概念ではない。

①自律的ショット
前後のショットからシーン的に独立しているショット。独立していないショットというのは、例えば、誰かが座っている姿勢から立ち上がるまでのショットと歩き出したときのショットは時間的にも空間的にも繋がっているから独立ではないという。
つまり、独立したショットというのは、キャプション・文字情報・イラスト・写真といった説明的なショット、回想や幻想の主観ショットといった挿入されたショットを指す。この中にはワンシーン・ワンショット=長回しで一つのシーンを描いたショットも含まれる。

②並行モンタージュ
2つの平行するショットを対比的に並べる。2つの対比的な関係が浮き彫りにされるため、例えば、金持ちが歩いているショットとホームレスが道端に座っているショットを組み合わせるなどの使い方が効果的になる。

③括弧入りモンタージュ
並行モンタージュが2つの対比の場合だが、これが3つ以上になるとこう呼ばれる。

④記述的モンタージュ
事物を連続して示すことにより時空間の同一性を感じさせる。物語のスタート地点で状況設定を示すために使われやすい。

➄交替モンタージュ
空間的には別でも、物語的に関連しているショットを交互に映すことによって、同時に別の場所で何かが起こっていることを表す。ハリウッドが発明したと言われ、クロス・カッティングとも呼ばれる。

⑥エピソードによるシークエンス
短いエピソードの集積によってつくられるシークエンス。時間的順序は遵守したまま、エピソード間の時間の飛躍が示される。

⑦通常のシークエンス
継続的な話の展開が進むが、時間の飛躍がある。朝起きて家を出るまでの時間を、顔を洗うショット、朝食を食べるショット、髭をそるショット、靴を履くショットの4つを組み立てて、間の時間を省略しても伝えられる。

⑧シーン
通常のシークエンスが時間の省略を含むのに対して、シーンは時間の省略をしない展開作りである。つまり、映画内の時間と、観客が過ごしている時間の流れが同期している場合を指す。お察しの通り、これが最もよく使われるものである

非常に難解な8つではあるが、これらが基本的な編集によって構成されるモンタージュのグループ分けである。もちろんこれだけですべてを分類できるわけではないが、メッツによるかなり強引な分類をすることで多少は映画を整理しやすくなるのは事実である。
次回は、編集によって映画にどのような性格が与えられているかをドキュメンタリーとフィクションの観点からお話ししようと思う。

そんな金がありゃ映画館に映画を観に行って!