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“サウス・ロンドン”にジャズミュージシャンが集中している理由とは…

J-WAVEで放送中の番組『SONAR MUSIC』(ナビゲーター:あっこゴリラ)。番組では、毎回ゲストを迎え、様々なテーマを掘り下げていく。

■サウス・ロンドンの音楽的特徴

近年よく聞く「サウス・ロンドン」という地域。トム・ミッシュ、シンガーのアーロ・パークス、ラッパーのロイル・カーナー、ゴート・ガールなどのロックバンドまで、ジャンルレスにフレッシュなアーティストが登場する、いま世界的に見ても、最も音楽が熱い場所の一つである。

そんなサウス・ロンドンで盛り上がっているのが、「ジャズシーン」。そこには、どんなアーティストがいるのか。そして、なぜロンドンではなくサウス・ロンドンなのか、11月23日(火・祝)のオンエアでは秋の終わりにUKジャズの最前線をお届けした。

ゲストには、ジャズやクラブミュージックに関する著書やコンピの監修を数々持つ、音楽ライターの小川充さんが登場。

あっこゴリラ:現在UKジャズシーンは、やはり盛り上がっていますか?
小川:2010年代からまた再注目されています。もともとイギリスはヨーロッパの中でもジャズの歴史が長い国で、1980年代から1990年代にはジャズで踊るムーブメントがあってクラブシーンにも定着し、アシッドジャズなどのブームもありました。
そういった土台があった中で2010年代になってからも、例えばゴーゴー・ペンギンのような若く新しいアーティストが続々と登場し、盛り上がっている状況だと思います。

そんな中でも、「サウス・ロンドン」からは多くのジャズミュージシャンが登場している。サウス・ロンドンは、イギリスの首都ロンドンの中心を流れるテムズ川の南側を指し、そのカルチャーの中心地は「ペッカム」というエリア。ナイトクラブやミュージックバー、芸術大学の存在、そして家賃の安さからカルチャー好きな若者が集まる場所となっていた。

以前は暴動が多く起きており、治安の悪い地域とされていたが、2012年にロンドン五輪へ向けた都市開発によりロンドン中心部と繋ぐ電車が通ったことで活性化。アクセスがよくなると同時に、カルチャーも盛り上がり 今ではロンドンいちのホットスポットに。急激に土地の値段が上昇している場所でもある。

あっこゴリラ:現在、「サウス・ロンドン」にジャズミュージシャンが集中している理由は?
小川:1960年代から1970年代においても、ロックと融合したジャズ・ロックが生まれるなど、ロンドンではいろいろな音楽シーンとジャズシーンには交流がありました。わかりやすい例では、ローリング・ストーンズのチャーリー・ワッツも、もともとはジャズバンドのドラマーでした。
あっこゴリラ:ローリング・ストーンズあたりのバンドのドラマーって、大体ジャズがルーツですよね。
小川:ジャズから始まっている人が多いですよね。そうした各音楽シーンの交流はずっと続いていて、早い話が、今の若いジャズミュージシャンは日常的にそれらクラブミュージックやロックを聴いて育っているので、自然と交流が生まれるわけです。
あっこゴリラ:なるほど~。サウス・ロンドンの音楽的な特徴はありますか? 
小川:一つ大きく言えるのが、サウス・ロンドンはアフリカ系、カリブ系の移民など黒人や有色人種が多く住んでいますが、「トゥモローズ・ウォリアーズ」という無料のアーティスト育成機関があって、もともとジャマイカ系のジャズミュージシャンが設立したところなので、多くのアフリカ系、カリブ系のミュージシャンを輩出しています。
あっこゴリラ:へえ~! 素晴らしいプロジェクトですね。
小川:そうですね。なので、アフリカンやカリビアンの影響を受けたジャズというのが、特徴の一つにあります。それから、ロンドン全体がクラブミュージックなど、ストリートミュージックの浸透した町でもありますので、ジャズにおいてもそうした要素を取り入れたサウンドは自然と生まれてくる環境にあります。
あっこゴリラ:おもしろい! サウス・ロンドンのジャズが注目されたきっかけは?
小川:3年くらい前に、DJのジャイルス・ピーターソンが作ったコンピ『We Out Here』は大きかったと思います。このコンピによってロンドンだけでなく、日本も含めて世界へサウス・ロンドンのジャズが発信されるきっかけになったと思います。
あっこゴリラ:DJがこういうきっかけになるパターンって、けっこう多いですよね。そんな中でも重要なアーティストは?
小川:このコンピを編集したシャバカ・ハッチングスです。サウス・ロンドン・ジャズの中心的な存在の一人で、非常に多くのバンドやプロジェクトで活躍しています。クラブ寄りのサウンドからフリー・ジャズ、前衛的なものと音楽性も幅広いのが特徴です。

■UK新世代ジャズがもっと楽しくなる3つのキーワード
ここからは、「UK新世代ジャズがもっと楽しくなる3つのキーワード」と共に進めていった。

あっこゴリラ:一つ目のキーワードは?
小川:「ジャズとアフリカンの融合」です。
あっこゴリラ:先ほど、サウス・ロンドンはアフリカ系やカリブ系が多い場所という話もありましたが、やはり特徴として大きなものがありますか? 
小川:アフリカ系ミュージシャンが多いということもあり、アフロ・ジャズやアフロ・ビートが日常的に根付いています。代表的なものだと、アフリカ系のコレオソ兄弟が中心となり、ジョー・アーモン・ジョーンズたちが参加する「エズラ・コレクティヴ」というバンドがあります。
あっこゴリラ:どういうバンドなんですか?
小川:カリビアンやアフリカンのカルチャーを取り入れ、ダンスミュージックのビートを生演奏に取り込み独自のジャズを演奏しているバンドです。自分たちの活動以外にもロイル・カーナーやジョルジャ・スミスなど、新進の注目シンガーやラッパーとのコラボも盛んにやっています。


あっこゴリラ:二つ目のキーワードは?
小川:「ジャズ・ミーツ・クラブ」です。
あっこゴリラ:確かにイギリスのアーティストとクラブミュージックは切っても切れない関係ですよね。サウス・ロンドンのジャズでも、そういうアーティストがいるんですね。
小川:DJやトラックメイカーとしても活躍するミュージシャンもいるのがサウス・ロンドンの特徴で、その中の一人がモーゼス・ボイドです。若きアート・ブレイキーとも評されるジャズ・ドラマーでありつつ、同時にビート・プラミングを取り入れてハウスやブロークンビーツ、ダブステップのようなクラブ・サウンドも作っています。


あっこゴリラ:三つ目のキーワードは? 
小川:「進化するジャズ」です。
あっこゴリラ:これは、どういうことなのでしょうか?
小川:これまでにない若いセンスや才能を持つミュージシャンがサウス・ロンドンから登場し、新しいジャズ、未来を切り開くようなジャズへと進化を続けています。そうした若手の一人が、アシュリー・ヘンリー。もともとクラシックからピアノをスタートしつつ、ディジー・ラスカルなどを聴いていたという今どきのミュージシャンです。
あっこゴリラ:良いですね~。
小川:彼は、王立アカデミーで作曲を専攻するなど、卓越した技術や理論を持つジャズ・ピアニストながら、ヒップホップやクラブ・サウンドなども柔軟に取り入れて、ナズやソランジェの曲をジャズでカバーしています。


■来年以降も注目! 「超新世代UKジャズアーティスト」
ここからは、来年以降も注目したい「超新世代UKジャズアーティスト」を教えてもらった。

あっこゴリラ:一組目は? 
小川:エマ・ジーン・サックレイです。
あっこゴリラ:どんなアーティストなんですか?
小川:彼女は、もともとイギリスのヨークシャー出身で、現在はサウス・ロンドンを拠点に活動するマルチ・ミュージシャン兼プロデューサーです。ジャズでありつつもジャズの枠に縛られない、新しい形のジャズを見せてくれる自由なアーティストかなと思います。


あっこゴリラ:サウス・ロンドン・シーンでの女性の活躍はどうですか? 
小川:女性ミュージシャンが多く活躍しているのもサウス・ロンドン・シーンの特徴ですね。サックス奏者のヌバイガ・ガルシアや彼女も参加するバンドのネリヤ、そのメンバーたちが結成したココロコなど、とにかく人材豊富です。
あっこゴリラ:続いての「超新世代UKジャズアーティスト」は?
小川:「サッカー96」です。
あっこゴリラ:どんなアーティストなんですか?
小川:シーンの重要人物シャバカ・ハッチングスと一緒にザ・コメット・イズ・カミングで活動するデュオ・ユニットです。彼らもジャズの枠に縛られない、新しい形のジャズを見せてくれます。特に、ポスト・パンクやインディ・ロック、サイケなどの要素も融合しており、これまでにないリスナー層にも響くのではないかと思います。


あっこゴリラ:改めて、サウス・ロンドンのジャズシーンのおもしろさとは?
小川:白人、黒人、ラテンやアラブ、インド系など、いろいろな人種が多いがゆえの多様性ですね。そうした国や地域のいろいろな音楽が混じり合って、ジャズと言っても本当に幅広い音楽が生まれているのがサウス・ロンドンだと思います。
あっこゴリラ:最後に、今後のUKジャズに期待することはありますか? 
小川:サウス・ロンドンのサークルにとどまらず、国境を越えたコラボなど、より広い世界の交流が生まれ、どんどんおもしろいジャズが生まれるといいなと思います。

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【番組情報】
J-WAVE 81.3FM『SONAR MUSIC』
放送日時:月・火・水・木曜 22時-24時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/sonarmusic/

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