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こんなに異常が普通な日々に

ただ 東京に帰りたくない というのは不純な動機だろうか、と考えながら 無計画で歩き回っていたら 1日で2万歩ほど歩いていた

都道府県をまたぐ移動の自粛を求められている今 わたしは お仕事で来ているのです、と 頭の中で唱えて 遠征帰りに遠征先にひとり残る 遠征をした事務所に所属する東京のアイドルが感染症にかかってしまっては多方面に迷惑をかけてしまう、と 当たり前かもしれないけれど どこに行くにもマスクを手放さず アルコール消毒を欠かさず 会話は最小限に抑え 

図書館のようなホテルを選んだ 部屋に置いてあった絵本とソファとフロアライトが素敵だったのでいつか一人暮らしをするときは同じようなものを買おうと思った SNSを更新してエゴサーチをして 頭に何の情報も入ってこないテレビを眺めながらコンビニで買ったご飯を食べて ぼうっとして サービスのホットコーヒーをちまちま飲みながら本を読んで 音楽をかけながらシャワーを浴びて髪を乾かして また本を手に取ったら いつも寝る時間より2時間半も早かった 7時にアラームをかけて8時に起きた チェックアウトをして外に出たら 近くの公園の喫煙所でスーツ姿の人達が煙草を吸っていた 朝食を食べた喫茶店で付近のスポットを探していたら 以前たまたま通りがかって入ったものの お店の名前は忘れてしまっていた雑貨屋さんを見つけた 紫色のクリームソーダを飲んだ 公園でおじさんがカラスに餌を投げていて 近くを通った家族の小さい女の子が 肩車をしてもらいながら「はととかいろんな鳥がいるね」と言っていた いつも前を通るお寺に初めて入った 東京にも店舗がある雑貨屋さんで東京でも買えるような660円のリングを買った 値段を大して見ずに注文した昼食はいつもの4倍くらいの金額だった 東京を出る前に焦って充電したイヤホンは一度も使わなかった

東京より道と空が広いと息がしやすくて 脳みそがちゃんと働いている感じがする 駐車場から出てきた車を運転している女の人が その道を通ろうとしていたわたしに気付いて 会釈をしてくれた わたしも思わず頭を下げた 東京にいるとき わたしはどうやら 常に切羽詰まっているらしい ひとは切羽詰まっていると ひとに優しくできなくなると わたしは思っている 

ツクヨミ ケイコになってからわたしは 1人でできることが格段に増えた どの電車に乗るかをひとりで決められるし、新幹線の切符をひとりで買えるし、ひとりで泊まるホテルを選んで予約を取れるし、そういう瞬間 わたしはいつになっても ああ、わたしはひとりでなんでもできるんだなあ、と嬉しいような 寂しいような 

新幹線のこの列の席を取れば富士山が見えるよ、と教わったのを 1番大切な『どの列なのか』を忘れてしまい まあいいか、と とりあえず取った座席に着いてから あ!これなら富士山が見える!と気付いて 絶対に寝ないぞ、富士山を見るんだ、と意気込んだ 景色を見ながら 気付いたら寝落ちて 富士山の直前で目を覚ましたにもかかわらず 曇に覆われた富士山を見つけて SNSに載せるわけでもなく 誰に見せるわけでもなく 映えもしない写真を撮ったりも した

このコーヒー果物みたいな香りがしない?、ここの雑貨屋さん 何を買うわけじゃないけどなんだか来たくなっちゃうんだよね、このあたりの街並みがすごくいいなあ、あのお店までこの距離なら歩いて行って 途中で公園に寄ってみようかな、こんなところにこんなお店があるから入ってみよう、全部ひとりごとで終わってしまうけれど それでも

綺麗だと思うもの 素敵だと思うもの 可愛いと思うもの いいと思うもの たくさんインプットして そういうものをそう感じ取れる感性が廃れてしまわないように 生きていきたいです


おわり

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